『孤狼の血 LEVEL2』村上虹郎、3時間ずぶ濡れで熱演
柚月裕子の小説を原作にした2018年の映画『孤狼の血』の続編『孤狼の血 LEVEL2』(8月20日公開)。『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』などの白石和彌監督が、広島の架空都市を舞台に警察とヤクザの攻防を「コンプライアンス一切無視」で過激に描いた本作の撮影が、2020年9月29日から11月8日まで35日に及び撮影広島県呉市をはじめとした広島県内で実施された。続編からの新キャストで、主人公のマル暴の刑事・日岡(松坂桃李)のスパイとして裏社会に送り込まれたチンタを熱演した村上虹郎の執念の役づくりに迫ります。(取材・文:森田真帆)
【動画】ずぶぬれで熱演の村上虹郎も!『孤狼の血 LEVEL2』特報
差別と貧困の中で生きてきた青年チンタ役への挑戦
本作で、松坂演じる日岡刑事と、鈴木亮平演じる上林組組長、2人の間で揺れ動くキーマンとなる男が、チンタこと近田幸太。貧しい暮らしを余儀なくされながらも、純粋で優しく、正義感の強い複雑なバックグラウンドを持つ青年チンタを演じるのは、UAと村上淳の息子として知られ、映画『ソワレ』や『るろうに剣心 最終章 The Beginning』などでその演技力を高く評価されてきた村上虹郎だ。出演のきっかけは、村上がとある映画祭で白石監督に会ったときに「監督の映画に出たいです!」と言った一言から。その言葉を覚えていた白石監督は、難役に村上をすえ、「村上さんの持つ純粋さだったり、まるで野生児のような天性の才能に惚れ込みました」と本作での仕事ぶりをたたえた。
呉弁のセリフは村上にとって2度目の挑戦。ドラマ「この世界の片隅に」(2018)で、ヒロイン・すず(松本穂香)の幼馴染を演じた際に習得した村上だったが、今回のチンタはキャラクターも話し言葉も全く違うため、何度も練習する必要があった。呉弁指導を担当した呉市出身の俳優・沖原一生を、「誰よりもすぐにセリフをマスターしてしまう、村上さんの耳の良さに毎回驚きます」と言わしめている。
白石監督も絶賛した天性の役者力
村上は現場では年上の俳優たちに囲まれ、一番年下だったが、天性の人懐っこさでスタッフにも先輩俳 優たちにもかわいがられていた。本番に向けて気持ちを高めていく松坂や鈴木と違い、村上は本番直前までスタッフたちとおしゃべりをしたりとリラックスした様子で過ごすのが印象的だった。だが、ひとたび本番となり現場に入った瞬間に彼の目はギラリと光り、そこには村上虹郎ではない、チンタが存在する。白石監督自身、「虹郎くんは本当に不思議な役者さんで、本番の直前までスタッフとふざけあったりしているから、最初はすっごい心配だったんです(笑)。でもその直後、よーい、はい! の声がかかった後のスイッチの入り方というか、そこの瞬発力とか集中力がすごすぎて、ただただ衝撃的でした」と話す。
また、村上は撮影中に何度も「お姉ちゃん、まだ来ないなあ」と言いながら、姉役の西野七瀬の合流を心待ちにしていた。「姉ちゃんが、チンタに対してどんな気持ちでいるのか。チンタと姉ちゃんがどんな関係性なのか、そんなことを聞いてみたいし、話し合っていきたい」と話していた村上は、現場に入った西野を質問攻めにして、2人で姉弟がこれまで経験してきたであろう過酷なバックストーリーをディスカッションしていた。また、姉と親密な関係にある日岡とチンタとの関係も重要なキーとなる。過酷な現実を生きるチンタは、日岡の前で弟のようなふるまいをする一方、まるで傷つくことを恐れているような切ない目で日岡を見る瞬間が何度もある。その切なさこそが、村上だから出せた魅力と言っても過言ではないだろう。
孤狼の雨の中で見せたひたむきさと熱情
辛い過去を抱えながら生きてきた上林にとって、過酷な過去を持ち、貧困と差別の中で戦いながら育ってきたチンタは特殊な絆を感じさせる舎弟だ。だからこそ、チンタの自分への忠誠を嗜虐的な方法で執拗に試す上林と、そしてその試し行動に必死にくらいついていくチンタのシーンは、お互いに一瞬たりとも目を逸らせない、逸らすことすらできない異様な緊張感がある。なかでも村上が、圧倒的な存在感を見せたのが大雨の中で上林と対峙するシーンだ。
照明の川井稔が、「白石組の雨は、ほかのところの雨の何倍もすごいから、初めての俳優はみんな驚くんだ」と話したように、白石監督の過去作を観ると、さまざまな作品の象徴的なシーンで雨が降る。そしてその言葉通り、本番が始まると滝のような雨が村上に襲いかかった。10月中旬にもかかわらず、その日の夜はストーブも必要な寒さとなったが、雨は容赦無くふり続け、撮影は3時間以上にわたって行われた。長時間水に打たれた村上は、ずぶ濡れの衣装を着替えることもできないため、カットがかかるとガクガク震えるほど。作品にとって非常に重要なシーンであるため、白石監督も妥協せず、なかなかOKがでない。それでもただひたすらに芝居し続ける村上の役者としての切実な姿と熱い姿勢は、見守るスタッフたちの涙を誘った。村上が命懸けで演じた、過酷な運命に翻弄されるチンタの生きざまは、観る者の心を打つはずだ。