片渕須直監督、『ジュゼップ』監督とのスタイルの違いを語る
『この世界の片隅に』などで知られる片渕須直監督が3日、都内で行われた映画『ジュゼップ 戦場の画家』の公開記念トークイベントに映画評論家の森直人とともに登壇し、イラストレーター出身のオーレル監督と、片渕監督のスタイルの違いについて語り合った。
本作は、スペイン内戦下の1939年、避難先のフランスで強制収容所に入れられながらも絵を描き続けた画家ジュゼップ・バルトリの実話を基にしたアニメーション映画。ヨーロッパの映画賞を総なめにしたのをはじめ、片渕監督が審査員を務めた東京アニメアワードフェスティバル2021コンペティション部門長編アニメーションでもグランプリを獲得している。
ステージに立った片渕監督は、「日本でアニメーションの監督をやっている人間なんですが、割とフランスに行く機会が多くて。フランスでは割と自分の映画を観てくださるお客さんたちがいらっしゃるなと思いつつ、行くたびにフランスのアニメーションの作り手の方々とも親しくなったりしています。オーレルさんとは(対談のため)オンラインでしかお話しできていないんですが、今日はそこで聞いてきた話なども紹介できたら」とあいさつ。
フランス人憲兵たちによる難民への虐待が横行する中、収容所の過酷な様子を描き続けるジュゼップと一人の新米憲兵との間に友情が芽生えるさまを描き出す本作。スペイン内戦の戦火を逃れ、フランスにやってきた難民たちを、フランス政府が強制収容所に無理やり押し込めたという事実について「意外だったし知らなかった」という片渕監督だが、「そのことをオーレルさんに話すと、うちのスタッフも知らなかったと言っていました。ある意味で、フランスにとっての汚辱というか、忘れられていた黒歴史のふたを開けて、アニメーションとして作った作品ということだと思いますね」と語る。
本作は、イラストレーターとして活躍するオーレル監督の長編アニメーションデビュー作となる。「オーレルさんは画家なので、動かすのは専門ではないと言っていましたね。でも重要なところは自分で描きたくなるので、自分で描いたと。だから動いていないんですが、動いていないのが弱点にはなっていないような気がしています」と指摘する片渕監督。
この独特な世界観のアニメーションについて「(この物語は、過去のつらい記憶を)孫に聞かせている回想という形なんですけど、時間が曖昧になっているような気がするんです。記憶の中にある世界を呼び戻そうとするその曖昧さが画面に現れている気がする。絵が動いてないというと、日本のアニメの基準で言えば手を抜いていると思われるかもしれないけど、時の流れの不思議さは動かない絵から来ている気がします」と分析すると、「オーレルさんが映像に詳しくないかというと、そうではなくて。(対談の時には)『この世界の片隅に』の編集について、どうしてああいう編集になるのか聞きたいと言われました。そういう映像的な観点は持っている感じはしましたね」とも感じたことを明かす。
一方、片渕監督自身のスタイルについては「僕は写真や資料からその時代を復元するように作っています。ある種の記録的なもので画面を固めるとハッキリした世界が作られるから、そこに登場した人の心を描くことができる。そうやって映画を観る人の隣にいるように感じられたらと思っています」とそのスタイルの違いを述べていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『ジュゼップ 戦場の画家』は8月13日より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開