失踪して帰って来た母は“別モノ”だった…アイルランド発のフォークホラー
第46回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門でアイルランド映画『ユー・アー・ノット・マイ・マザー(原題) / You Are Not My Mother』が上映された。人間がひそかに連れ去られ、別の“何か”が残される「取り替え子」をはじめとしたアイルランドの民間伝承をモチーフにしたフォークホラーだ。
物語はある日、シングルマザーの母親(キャロリン・ブラッケン)が突然不気味な失踪を遂げるところからスタート。母はすぐに戻ってきたものの、性格も立ち居振る舞いも失踪前とはどこか違っていて……。ハロウィーンの季節を舞台に、母のことを深く愛しながらも、どんどん常軌を逸していく彼女に不安を募らせるティーンエイジャーの娘(ヘイゼル・ドゥープ)の恐怖、そして家族の暗い秘密がヒリヒリとした緊張感の中で描かれる。
監督・脚本を務めたのは、これが長編映画デビューとなったケイト・ドランだ。Q&Aを行ったドラン監督は、精神疾患を抱えた家庭で育った自身の経験から同作が生まれたと明かし、「ティーンの頃はまだその全体像(家族が抱えた問題)がつかめていないのにもかかわらず、突然、重大な局面が訪れ、たくさんの責任が肩にのしかかることがある。それがいかに恐ろしいことなのか、ということがこの物語のインスピレーションになった」と語る。その経験とアイルランドのダークなフォークロアを絶妙に融合させた同作では、キャロリンとヘイゼルの肝を冷やす怪演も光っている。(編集部・市川遥)