松村北斗「何食べ」で試練 演技は苦しいけれど生きている心地がする
アイドルグループ「SixTONES」のメンバーとして活躍するのと同時に、俳優としてもテレビドラマ、映画へと精力的に出演している松村北斗。そんな彼が、西島秀俊&内野聖陽がダブル主演を務める『劇場版 きのう何食べた?』(公開中)に、内野演じる矢吹賢二の後輩美容師・田渕剛役として出演を果たした。人気ドラマの映画化、しかも出演陣は、日本の映像界のトップランナーとも言える俳優たちがズラリ。10月頭に行われた完成報告会で松村は「このメンバーに入れて夢のよう」と語っていたが、実際に現場で対峙した内野からは多くのことを学んだという。
内野のアイデアの豊富さに脱帽
本作は、累計発行部数840万部(電子版含む)を突破したよしながふみの人気コミックを実写化したドラマの劇場版。料理上手で倹約家の弁護士・筧史朗(通称シロさん/西島)と人当たりのいい美容師・矢吹賢二(通称ケンジ/内野)の、京都旅行に端を発した切実な問題が描かれる。連続ドラマは2019年4月クールに放送されると大きな反響を呼び、翌年の元旦にはスペシャルドラマが放送された。
劇場版で松村演じる田渕は、思ったことをすぐに口に出してしまう生意気さはあるものの、ニクめない性格でコミュニケーション能力が高いイケメン美容師。内野演じるケンジからは、たびたび小言を言われるが、一緒に食事に行くなど関係は良好という間柄だ。
先日行われた完成報告会で内野は、連続ドラマ、スペシャルドラマを経てスタッフ、キャストの雰囲気が出来上がっているなかで、新メンバーとして劇場版に参加することの大変さを慮っていたが、松村自身、現場で内野と芝居をすることで俳優として多くの刺激を受けたようだ。
松村は「内野さんは、シーンごとにご自身のなかでアイデアがどんどん出てくるようで、その都度『こうしてみたらどうだろう』という提案を現場でされるんです」と語ると、ケンジという役柄はもちろん、画角全体として作品を捉え、より良いシーンにしようと妥協しない姿勢に感銘を受けたという。
こうした内野の芝居に「もっと自分のなかで、感情の量や豊かさみたいなものを持っておかなければいけない」と身をもって感じたという松村。
商店街を歩くケンジと田渕のシーンで受けた衝撃
具体的に内野と対峙した際に衝撃を受けたシーンとして、シロさんが、ケンジと田渕が二人で仲良く歩くところを見て動揺するシーンを挙げる。
「あのシーンは二人の会話の距離感と、それを見ているシロさんの解釈が違うということを表している場面なのですが、僕はどうしても田渕とケンジの関係のことばかり考えてしまっていたんです。でも内野さんは、自分たちの芝居以外にも、それを見ているシロさんの視点までしっかり考えながらお芝居をしているんです」
松村の言葉通り、劇中のケンジと田渕の歩くスピードや互いの顔の寄せ方、角度など、引きと寄りで、違った関係性を想起させるようなシーンになっている。
田渕というキャラクターは、思ったことを誰にでもすぐに口にしてしまい、しかも言葉づかいも悪く、ややもすると嫌悪感を持たれてしまう危険もあるが、松村が演じることで何とも憎めない愛らしさを醸し出している。
複雑なキャラクターだが、松村は「自分の言動に対して、世の中の基準で言えば異論も反論もあることは分かっていながら、田渕はそれを認めないというか、しっかり自分を持っている。だからこそ、発する言葉に疑いを持ってはいけないのかなと思って演じました」と役づくりについて語る。
それでも芝居が好き
日本を代表する実力派俳優とガッツリと対峙したことは、多くのことを学んだと同時に「芝居の難しさをさらに深く感じた時間でした」と振り返る。こうした経験は、俳優・松村北斗にとってどんな影響をもたらしたのだろうか。
松村は「(例えば)ゲームをやっていて楽しいというような明るい意味での楽しさが増しているのかというのは分からないですが、演じることへの思いは深まっています」と断言すると、「やっぱりお芝居はやればやるほど難しいし、悩みや苦しさも尋常じゃないんです。でもそれって、すごく生きている心地がするんです」と笑顔を見せる。
続けて松村は、作品を重ねるたびに自分自身への課題が見つかるということに「向き合うとしんどいこともありますが、やっぱりお芝居が好きですし、そういう困難なことも含めて作品に参加できるということは楽しいです」と力強く語っていた。(取材・文:磯部正和)