生田斗真、異次元な『土竜の唄』は間違いなく「ターニングポイント」
累計発行部数950万部を突破する高橋のぼるの人気漫画を、三池崇史監督、宮藤官九郎の脚本により映画化した大ヒットシリーズの第3弾『土竜の唄 FINAL』(11月19日公開)。2014年の第1作から3作にわたって主演を務めてきた生田斗真が、自身にとっての「ターニングポイントになった作品」という同シリーズにおいて、長年組んできた三池監督や宮藤との仕事について振り返った。
映画『土竜の唄』シリーズは、スケベだが真っ直ぐで熱い警察官の菊川玲二(生田斗真)が、潜入捜査官“モグラ”として日本最強のヤクザ組織・数寄矢会に潜入し、そのトップ・轟周宝(とどろき・しゅうほう/岩城滉一)を逮捕しようとする物語。映画は、2014年公開のシリーズ第1作『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』が興行収入21.9億円、2016年公開の2作『土竜の唄 香港狂騒曲』は14.3億円のヒットを記録した(数字は日本映画製作者連盟調べ)。数寄矢会の構成員となった玲二は、その度胸の良さや強運で数々の試練を乗り越え、出世して周宝に近づいてきたが、今回の『土竜の唄 FINAL』では、過去最大の取引額6,000憶円の麻薬密輸阻止と共に、いよいよ周宝の逮捕に挑むことになる。
2014年の第1作から主人公の菊川玲二を演じてきた生田は、「間違いなく、僕自身の俳優人生においても、ある種のターニングポイントになった作品。それがいい方向に行ったのかはさておき(笑)、曲がり角というか、確実にいろんなことが変わるきっかけを作ってくれたことは間違いない」と振り返る。バカでスケベだが曲がったことが大嫌いな男気のある玲二をまさに身体をはって体当たりで演じたことにより、「若い男の子などからも『土竜見てます!』みたいに声をかけていただけるようになって、励みになりました」と思い入れの深さを語る。
「菊川玲二というキャラクターを自分の中に取り込んでいる時間ほど、無敵になれる時間はないし、何をやっても怖くない。全然疲れも感じないし、ちょっと異次元に行く感覚が毎回ある。今回もかなり過酷なことにチャレンジしていますが、玲二だからこそ飛び込めた部分があると思います」
「玲二というのは自分の中にずっとあるものだったりするから、一生懸命探らなくても、すぐ戻れる感覚はあります」と前作から約5年ぶりにもかかわらず、撮影現場でもすぐさま違和感なく演じることができたようだが、それは三池崇史監督だからこそという部分もあるようだ。「数年ぶりに玲二を演じるので、撮影初日はある程度身構えていったのですが、三池監督が最初に撮るシーンについて話し始めた時、『で、玲二さんは~』と言ったんです。その『で』というのが、ずっと続いていたというか、自然に昨日まで撮っていたような感覚にさせられて、すごく印象的でした。役者との距離感や人の動かし方が絶妙なので、三池監督の手のひらで踊らされているなあと。やっぱりすごい人ですよね」
そうはいっても三池監督の現場はかなり過酷らしく、「撮影はすごく長くてハードだし、次に何が起きるかわからない状況が一日中続くので、刺激的だし、特殊ですね。瞬発力が求められる現場だとも思います」とのこと。今回の撮影で特に過酷だったのは、冒頭のシーン。玲二はある事情により、イタリア・シチリア島の断崖の晒し台に拘束され、体のあるところに塗られたチーズにカモメが群がるという場面だ。
過酷だと言いつつ、「その現場にいるスタッフさんや役者たちみんなに、『三池さんが喜んでくれたらいいな』みたいな空気があるというか、三池崇史という男に惚れている感じが原動力になっているような気がします。その一体感はすごく不思議ですね。それに、三池崇史を愛するように、菊川玲二も愛してくれている感じが非常に伝わる現場」とも。役者への演出の際、自身が演じてみせることも多い三池監督は、頑張りすぎて第1作では足を挫いてしまい、しばらく足をひきずっていたこともあったそうだ。その熱の入った演出はイメージもしやすく、スタッフ&キャストがほれ込む理由の一つなのだろう。
作品への思い入れの深さは脚本の宮藤官九郎も同じのようで、話は生田が出演した2019年放送の大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」の打ち上げ時へと遡る。「『いだてん』の打ち上げの時に、宮藤さんから今回の脚本ができたことを教えていただいたのですが、『今回大変だよ~』みたいなことを半笑いでおっしゃっていて(笑)。この作品を楽しみながら書いてくださっているんだなと感じました」と述懐。宮藤とは「いだてん」のほか、連続ドラマ「うぬぼれ刑事(でか)」(2010)、単発ドラマ「JOKE~2022パニック配信!」(2020)、劇団☆新感染の舞台「Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~」(2016)など度々組んできたが、宮藤との歩みをこう語る。
「いろいろな作品でご一緒してきましたから、時間を共にする中で、僕だったらきっとこうするだろうみたいなことを考えながら書いてくださっているんだろうと思うし、宮藤さんの意図みたいなものを僕も何となく感じられる気がしていて。長年一緒に組んできたことで、こういうことをやってほしいのかなとか思いながらできるのは、やっぱり楽しいですね」
宮藤脚本の魅力については、「例えば『バカじゃないの』ってゲラゲラ笑っていたはずなのに、いつの間にか涙が出ているみたいなことがある。それが宮藤さんの作品の特徴でもあったりするんですよね」とのこと。今回もその宮藤脚本の魅力が発揮された作品になっていると言い、「お祭りのような映画ではありますが、今回はパピヨン(堤真一が演じる日浦匡也)との絆や猫沢(岡村隆史)との関係もしっかりと丁寧に描いています。そこは玲二のスケベなシーンと共に、宮藤さんらしさみたいなものが色濃く出ていると思います」とシリーズ最終作の見どころをアピールしていた。(取材・文:天本伸一郎)