職場閉鎖からディズニー入社 海外在住の日本人アニメーター、コロナ禍で奮闘
映画『ミラベルと魔法だらけの家』に携わっている日本人アニメーターの堀グレイスさん。25年間暮らした日本を離れ、コロナ禍の今年1月から米ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで働いている彼女がリモートインタビューに応じ、「運命的なものを感じました」というディズニー入社や、アニメーターとして不安を抱いていたコロナ禍でのリモートワークについて語った。
【動画】堀さんが参加したディズニー新作『ミラベルと魔法だらけの家』
高校の授業をきっかけに映像制作に興味を持った堀さんは、無料のチュートリアル動画を参考にしながら自主制作にのめり込んだ。「ソフトウェアを長時間いじっていたり、何かしら作業している状態でした」と映像制作に没頭していた彼女は、新卒で広告代理店に入社後、3年間営業職を経験。「最初は営業で全体像を掴み、仕事の流れを学んでから、(映像制作を)やりたいなってずっと思っていました」と道筋を立てていた彼女だが、次第に趣味を仕事にしたい意欲が増していったという。
「営業でクライアントのスタジオにお邪魔していたのですが、編集している様子を隣で見ている時に『居心地がいいのはここ(パソコンの前)だな』と気づいたんです。全く迷いなく、スパッと仕事を辞めました。営業職の頃から週末は映像を作ってデモリール(映像集)を作成していたので、それを制作会社に履歴書と一緒に提出して、そのまま業界が変わりました」。
その後ハリウッドへ渡り、現地の学校でビジュアル・エフェクトを学んだ堀さん。自身の制作スタイルがアニメーション向きだと考えた彼女に、ディズニー就職を決断するある出来事が起こった。「ディズニーの前に勤めていた職場が、昨年の夏ごろに閉鎖されたんです。そのタイミングと、ディズニーのトレーニングプログラムの募集時期がちょうど重なったんですよね。ちょっと運命的なものを感じました(笑)。前の会社がクローズするとは知らされていたので、みんな『デモリールの制作頑張らなくちゃ!』みたいな会話をしていて。私も自主制作に力を入れていた時期だったので、今やってることを全部集めて、(ディズニーに)送ってみようじゃないか! と思ったことがきっかけです」。
エフェクト・アプレンティスとして今年1月にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオへ入社した堀さんは、コロナ禍でのリモートワークに不安を抱いていたという。しかし、そんな不安は最初の一か月で吹き飛んだ。「ディズニーのスタッフはミーティングの時、カメラが基本ONなんです。テレビ会議などは、映像をOFFにして声だけ流す方が多いかなと思っていたんですけど、ディズニーは100人規模の会議でも半分近くの人がカメラONなんですよね。社員同士の距離が近いことが、画面越しでも伝わってくるんです。みなさん『リモートでスタートするのは大変だよね』という理解がすごくあって、『気軽に連絡していいからね! 電話も5分だけでも全然いいから積極的に話しかけてね!』って言ってくれるんです。ウェルカムな感じで、安心感がすごくありました」。
ディズニーに入社して10か月が経過した堀さんは、「ディズニーではポジティブな発言が多い」ことに気づいた。「週1~2回のデイリー(定期的に進捗状況を共有するミーティング)でコメントを頂くんですけど、そのコメントがネガティブだったことが一度もないんです。もちろん全部OKという意味でもなくて、『ここはすごくいい! けど、ここをもっとこういう風にしたものも見てみたいな』という言い方なんです。誰にコメントを求めても、ポジティブな言葉が返ってきます。ミーティングでも、基本的にネガティブな発言はほとんどありません」。ネガティブに見えることもポジティブに捉える循環に身を置いたことで、堀さん自身もポジティブ思考に変わったという。
ディズニーで働くためのアドバイスを聞いてみると、「なるべく同じような志を持った人をいっぱい探して、仲間を集めること」と回答した堀さん。「私も入社前からウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで働く友達が3~4人ほどいて、その人にスタジオツアーをしてもらい、実際に社内を見て、具体的にイメージすることができました。その人がどんな過程を経て入社したかというのも間近で見ることができたので、ディズニーに入社することに限らず、何か目標がある場合は、その目標にいる人もしくは同じ目標に向かっている人と仲良くしようというのが一番のアドバイスです」と夢を追いかける若者にメッセージを送っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『ミラベルと魔法だらけの家』は全国公開中