松本潤「99.9」で再始動は「大きかった」
2016年にTBS日曜劇場で放送された連続ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」で、刑事事件専門の型破りな弁護士・深山大翔(みやま・ひろと)を演じた松本潤。劇中、驚くべき考察力と並外れた頭脳を持ちながらも、親父ギャグをこよなく愛する緩急に富んだ役柄は、俳優・松本潤の新たな魅力を堪能できる代表作の一つと評する人も多かった。その後も、2018年にはSEASONII、今年の年末12月29日にはスペシャルドラマ、さらに翌日12月30日より映画版『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』と作品は大きな展開を遂げていくが、松本にとって本シリーズはどんな存在だったのだろうか……? 率直な胸の内を語った。
2016年に放送がスタートした際、松本が作品に取り組むうえで大切にしたのが、刑事事件という重いテーマをエンターテインメントというオブラートに包んで提供すること。「日曜日の夜に観てもらう作品という意味で、いい意味でヌケ感があればいいなと思っていました。同時に僕はこの作品に臨むまでは、刑事事件が起訴された場合、99.9パーセントが有罪になるという事実を知りませんでした。そういったテーマを、笑いや濃いキャラクターを通して緩急をつけ、あまり説教臭くなく視聴者に届けられればいいなと思っていました」
この言葉通り、松本が演じた深山は父親の身の上に起きたことがきっかけで弁護士になり「事実を追求すること」に強いこだわりを持ちつつ、シリアスな場面にもかかわらず親父ギャグを発したりする風変わりな一面で松本の言う“ヌケ感”を表現し、硬派なテーマを柔らかくする役割を果たしている。
同時に、このさじ加減を絶妙な塩梅にするために松本自身が心掛けていることもある。「この作品に携わらせていただくようになってからニュースなどで世の中で起きている事件をより観察するようになりました。事件や事象をフィクションに置き換えたとき、どのようになるのか。事件や裁判の当事者にとっては、ふざけ過ぎてしまったら伝えたいことが伝わらなくなってしまうのではないか……ということを考えながら、表現においてどんなチョイスをすればいいのか、常に頭の片隅に置いて芝居をしていました」
座長を務める松本、そしてメガホンをとった木村ひさし監督らの、こうした作品に対する思いは、視聴者の心をつかみ、複数回シリーズ化されるまでに成長。初の映画版が制作されるまでになった。松本は「結果論ですが、2021年に入ってガッツリ仕事を再開するタイミングで撮影したのがこの作品でした。勝手知ったる現場でリスタートを切ることができたのは、僕にとっては大きかった」と、2020年末に嵐の活動が休止してからの、自身の再始動が本作だったことに運命的なものを感じていたようだ。
本シリーズの魅力の一つに、テンポの良い会話劇があるが、スタッフ、キャストたちが現場でアイデアを出し合い、台本にないシーンが生まれることもしばしば。なかでも、刑事事件専門ルームでのやりとりは活発な意見交換のもと、どんどんブラッシュアップされていったという。
「刑事事件専門ルームは、事件を整理し、物語が次の展開に進むための場所だと捉えています。実際に撮影現場に行って、ホワイトボードを前にして(深山として)しゃべってみると、台本に書かれていることだけでは足りなくなったり、逆に過多だったりするのが見えてくるんです。映画版では、その都度(新米弁護士・河野穂乃果役の)杉咲花さんと、どういう言い回しだと伝わりやすいかというのを話し合いました。その僕らの横で、他愛もないことを話しているおじさんたちがいる……という構図ですね(笑)」
また、松本にとって他作品と大きく異なるのが、瞬発力を要する対応が求められること。松本は「とにかく段取りの段階で、自分も含めて皆さんいろいろなパターンのお芝居を試すんです。だからしっかりと相手の芝居を受けなければいけない。ほかの役者さんがどう動くかで、撮り方も変わる。段取りからとてもスリリングで楽しいんです」と目を輝かせていた。
そんな刑事事件専門ルームに新ヒロインとして加わった杉咲花。松本とのシーンも多かったが「朝ドラ(『おちょやん』)が終わってからすぐこの現場に入られたそうなのですが、まったく違うキャラクターで、しかも現場で監督がいろいろ台本にないことを足すなか、最初からかなり回転数の高いエンジンを使って軽やかに対応されていたのはすごいなと思いました」と称賛。一方、シリーズを重ねるごとに名コンビとなっていった弁護士・佐田篤弘役の香川照之については「重厚さと柔らかさを演じ分けるバランスはすごかったです」と改めて実感したという。
連続ドラマ2シーズン、さらに映画公開前夜に放送されるSPドラマ「99.9-刑事専門弁護士- 完全新作SP新たな出会い篇~映画公開前夜祭~」(TBS系で12月29日よる9:00~11:27放送)を経て、満を持して映画版が公開される。しかし松本は「いい意味で、映画だからといって世界観は変わっていません」と語ると「刑事事件を扱うという意味での硬派なところと『99.9』らしい軽やかさという、ドラマの魅力である部分をスクリーンで楽しめる贅沢な作品になっていると思います。あとは榮倉(奈々)さんや木村(文乃)さんなど、過去のシリーズの方々が、とても良いタイミングで出てくるのもお楽しみに」と期待をあおっていた。(取材・文:磯部正和)