北村匠海が救われたDISH//メンバーの存在
俳優としてだけでなく、ダンスロックバンド・DISH//のリーダーも務めるなど、幅広く活躍する北村匠海。最新主演映画『明け方の若者たち』では、理想と現実のギャップに苦悩する新米社会人の葛藤を繊細に演じた北村が、主人公に大いに共感したポイントを明かすとともに、精神的な危機を救ってくれたDISH//メンバーの存在を改めて振り返った。
【インタビュー動画】北村匠海が語るDISH//メンバーの存在
理想と現実のギャップに共感
本作は、注目の新鋭・松本花奈監督が、人気ウェブライター・カツセマサヒコの同名小説を映画化した青春ドラマ。学生最後の飲み会で出会った“彼女(黒島結菜)”に一目惚れした“僕(北村)”が、人生最大の恋に溺れながら、その一方で、思い描いていた社会人とは程遠い現実に振り回されるさまを描く。
主人公の“僕”が感じる「こんなはずじゃなかった」という感覚に、大いに共感したという北村。「子供のころは、純粋に未来というものにいろいろな思いを馳せていましたが、いざ大人になってみると、意外と社会が小さく見えるんですよね。この作品でも描かれている『こんなはずではなかった』という“大人のゾーン”みたいなものは、僕も感じたことがあるものでした」と自らの経験を照らし合わせる。
本作では「勝ち組・負け組」がキーワードとなっているが、人に勝ち負けのラベルを付けることに対して、北村は「正直、嫌悪感を覚えます」とキッパリ。「確かにスポーツの世界では、ルール上、勝敗はつけられますが、それぞれの人生を考えた時、何を基準に勝ち負けを決めるのか。試合に負けた者すべてが負け組と言えるのか。僕はむしろ、その先にある自分の人生をどう生きるか、より豊かな人生にするために何をすべきかがとても大切だと思っています。そういった意味では、誰もが勝者になれるチャンスがある。スペックだけで勝ち負けを語れないのが人生だと思うんですよね」と持論を述べた。
精神的な危機を救ってくれたDISH//メンバーに感謝
黒島演じる“彼女”との愛のもつれ、思い通りにならない就職先でのポジション……。劇中、主人公の“僕”は、儘(まま)ならない社会の渦の中で悶々とした日々を送ることになるが、それを救ってくれたのが、同期の戦友。勝ち負けを超えた友情も本作の大切な要素となっているが、北村自身も精神的な危機を救ってくれたDISH//のメンバーに対して感謝の気持ちを口にする。
「僕自身、バンド活動をおろそかにするつもりはまったくなかったのですが、俳優としての仕事の比重が大きくなりすぎた時期があって……。そのことを一番わかっている彼らは、『無理しないでいいんじゃないか』と声をかけてくれたんです。聞く耳を持てないくらい余裕がなくて、毎日が綱渡りのような状態だったのですが、今思い返せば、その言葉が救いになりましたね」としみじみ振り返る。
さらに、「彼らに『無理するな』と言わせてしまうくらい切羽詰まっていた僕も、コロナ禍による自粛期間の中で、いろいろ気持ちを整理することができた」とも。「役者一本で行く人も、アーティスト一本で行く人も、みんな覚悟があって滅茶苦茶かっこいいけれど、僕自身はいろんなことに挑戦して見えてきたこともある。今は、いつかおじいちゃんになった時に、人生を振り返って満足できることって何だろう? と考えることができるようになりました」。吹っ切れた表情でそう語る北村の目には、葛藤を乗り越えた心の余裕が見てとれた。(取材・文:坂田正樹)
映画『明け方の若者たち』は12月31日より全国公開