『劇場版 呪術廻戦 0』禪院真希役・小松未可子、自分の声にコンプレックスあった
呪術師たちの壮絶な闘いを迫力のアクションとともに描き大人気となっているアニメ「呪術廻戦」で、禪院真希を演じている声優の小松未可子。強くまっすぐ生きる真希を演じる上では、「彼女には底知れないエネルギーがある。それを表現するだけの声の説得力が、私にあるのだろうか」と当初は不安に感じることもあったという。プレッシャーと闘いながら真希の葛藤を表現し、真希からたくさんの力をもらったという小松。公開中の『劇場版 呪術廻戦 0』で改めて感じた真希の魅力や、「もともと自分の声にコンプレックスがあった。キャラクターによって、声を育ててもらってきたと感じています」という声優業の道のりについて語った。
『劇場版 呪術廻戦 0』の真希は一層、血の気が多い
原作は、人間の負の感情から生まれる呪いと、それを呪術で祓う呪術師との闘いを描く芥見下々による大人気漫画。劇場版で描かれるのは、既刊単行本の中でも人気のストーリーの一つである「呪術廻戦」の前日譚「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」、通称“0巻”で、テレビアニメシリーズの1年前が舞台となる。幼馴染の祈本里香（花澤香菜）を交通事故により目の前で失い、彼女に憑りつかれてしまった乙骨憂太（緒方恵美）が、呪術高専の教師や生徒と出会い、愛する人の呪いを解くことを誓う姿を描く。
小松は、「“0巻”は『呪術廻戦』の始まりであり、原点。今後への伏線もたくさん散りばめられています。演じる私たちにとっても時系列が逆転するので、現在につながる形に導けるだろうかというプレッシャーがありました」と胸の内を語る。
呪術高専1年生のときの真希の様子が明らかとなるが、小松は「真希が精神的にもかなり強くなった1年」と分析し、編入してくる乙骨との出会いも彼女の成長の鍵を握っていると続ける。「乙骨という存在がまた彼女が強くなるきっかけをくれた。1年生のときの真希は一層、2年生時よりも血の気が多い気もしています。同級生の狗巻棘とパンダとはすでにいいチームワークがありつつ、さらに絆が強まっていく。とても重みのある1年だと思います」
真希を演じるプレッシャー。芥見下々と内山昂輝への感謝
呪術界の名門に生まれながら、呪力をほとんど持たず、禪院家の落ちこぼれとして扱われていた真希。呪術師になって家を見返すために呪術高専に入学するなど、過酷な状況を糧に未来に突き進んでいるキャラクターだ。小松は「真希は、呪力がほぼないというコンプレックスがあり、家族のなかにほとんど味方がいないという境遇で育って。でもそこで『禪院家の当主になってやる』と思える、強靭な精神力を持っている。すごくポジティブだと思います」と印象を吐露した。
「口調も荒々しいんですが、男性だらけの社会で育つためには、彼らとも対等に、むしろ自分が上なんだというくらいの気持ちで生きる必要があった。それが彼女の口調にも表れているなと思います」と真希の心に寄り添いながら、「彼女には底知れないエネルギーがある。それを表現できるだけの声の説得力が私にあるのだろうか、みなさんの思う真希に届くことができるのだろうか、と悩むこともあります」と真希を演じる際に感じた不安を告白する。
そのプレッシャーをやわらげてくれたのは、「真希役に決まった時、芥見下々先生から温かいお言葉をいただいて、『よし！ 自分のままで戦おう』と感じることができました」と原作者からの言葉。また、「『呪術廻戦 じゅじゅとーく』という番組では、棘役の内山（昂輝）くんが『真希の強さは完成されたものではなく、まだ発展途上で争っている途中。強さの中にも若さ、未熟さがあっていいんじゃないか』と言ってくれたことがありました。その言葉が、またひとつ自信をくれました」と共演者からも力をもらった。
王道を歩んできたわけではない、声にコンプレックスも
「『呪術廻戦』に出てくる女性キャラクターはみんなかっこよくて、いつも力をもらっています」という小松。とりわけ深く心に残っているのが、テレビシリーズにおいて妹の真依から「なんで一緒に落ちぶれてくれなかったの？」と怒りをぶつけられた真希が、「あのままじゃ私は私を嫌いになってた」と自身の生き様を語るセリフだという。「自分を大事にしながら、自分のために戦い、戦うことで仲間ができていく。人生のあらゆる局面でも思い出したい、大好きなセリフです」とにっこり。
また「私自身、悔しさはいい意味で糧になっています」と逆境を糧にする真希に共感も。「いち役者として、こういう表現もあるんだ、と感じたり、いろいろな方のお芝居を見るたびに心が折れそうになることもあります」と苦笑いを浮かべつつ、「でもそう思うことが頑張る力にもなっています。『呪術廻戦』の現場は、すごいお芝居をされる方ばかりですから！ 悔しさが押し寄せることばかり」と楽しそうに語る姿からも、充実の時を迎えていることが伝わる。
呪具を使う真希にちなみ、小松の声優としての武器について聞いてみると、「キャラクターにたくさん育ててもらってきたこと」と演じてきた役柄への感謝をあふれさせた小松。「私は養成所で学んできたわけでもありませんし、声優としての王道を歩んできたわけでもありません。自分の声には特徴がないなと感じて、むしろ声にはコンプレックスを感じていました。でもいろいろなキャラクターに出会わせていただき、そのことによって自分の声を育ててもらった。このキャラクターに出会わなかったら、私はこんな声を出さなかっただろうなと思うことばかりです。自分の声が“畑”だとすると、キャラがそれを耕して、開拓してくれているよう」と輝くような笑顔を見せる。
「真希は暴走すると手がつけられないし、コントロールすることが難しいじゃじゃ馬ですが（笑）、憧れるようなとてもすてきな女性。私自身、ここまで強い女性を長く演じさせていただく経験も初めてです。真希がまた、声優としての私の新しい扉を開き、さらなる一歩を歩ませてくれたなと感じています」と心を込めていた。（取材・文・撮影：成田おり枝）
『劇場版 呪術廻戦 0』は公開中