マーベル映画に登場するマルチバース、どう説明すればいい？専門家に聞いてみた

　映画『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』（2022年1月7日全国公開）をはじめとする近年のマーベル映画で、頻繁に耳にするようになった単語がマルチバースだ。「いくつもの並行世界」など表現はさまざまだが、一般的にはどのように説明されるのか？　最新作公開を前に、カリフォルニア大学バークレー校でマルチバース理論を研究する野村泰紀教授がインタビューに応じ、サイエンスにおけるマルチバースについて語った。

【画像】新スーツ登場！『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』

　神奈川県出身の野村教授は、東京大学理学部物理学科、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程を修了後、2012年にカリフォルニア大学バークレー校の教授に就任。主な研究領域は、素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論で、2017年には最先端の宇宙像に迫る著書「マルチバース宇宙論入門　私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか」（星海社）を出版している。

　一般的に、マルチバースとはどう定義されるのか？　野村教授は「私たちが全宇宙だと思っていたものは実はそうではなくて、いろんな宇宙が存在している」と説明する。「マルチバースにも色々なバリエーションがあり、至るところでその言葉が使われていたりします。他の宇宙が存在するといった時、歴史だけが違う世界が存在、たとえば私じゃない人や別の仕事をしている私が存在する世界があるという意味で使われることがあります。また最近ですと、光や電子が存在しない宇宙、私たちが基本法則だと思っていたことも違う宇宙もあると言われています」。

　マーベル・シネマティック・ユニバース（MCU）は、フェーズ4に入ってマルチバースを本格導入している。時間軸の分岐を扱ったドラマシリーズ「ロキ」、MCUヒーロー＆ヴィランのもしもを描く「ホワット・イフ...？」、スパイダーマンの歴代ヴィランが集結する『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』とその規模は拡大し、待機作『ドクター・ストレンジ／マルチバース・オブ・マッドネス』ではタイトルにまで含まれるほど。マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは、社内スタッフを集めてマルチバースの戦略会議を行ったと米ディズニーのポッドキャスト番組で語るなど、今後の展開には欠かせない要素になりつつある。

　ドクター・ストレンジが『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』の予告編で「マルチバースの構造は私も解明できていない」と話すように、現代科学においてもマルチバース理論が完全に確立されているわけではないという。「私が現在標準になりつつある思う理論では、歴史が違うだけではなく、素粒子・粒子の性質や種類、力や次元（タテ・ヨコ・高さ）なども異なるバリエーション豊富な宇宙が存在します。このような結果は物理の方程式を解くと出てきますし、またそういうふうに考えないと説明がなかなかつかない現象もでてきました。並行宇宙という形で同時に違うものが存在するマルチバース、広い宇宙の中で別の世界が存在する空間的に遠いマルチバースも存在していて、その二つは同じことを言っているだけという理論も存在します。『マルチバースは何なの？』という答えは、これから解明していくものです」。

　フィクションとしてマルチバースを取り込むマーベル映画を「非常によく作られています」と評価した野村教授。「サイエンスにおけるマルチバースという言葉が使われたり、インスピレーションになったりするのは、そこから（サイエンスに）興味を持たれたりする方もいらっしゃるので、個人的にもすごく嬉しいことです」と笑顔を浮かべる。

　『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』本編を一足早く鑑賞した野村教授は、「この作品はマルチバースだけではなく、色々な次元や超弦理論（String Theory）といった最先端の理論をツールとして、ストーリーが語られています」と分析。「すごく感動的な話になっていたので、みなさんにも楽しんでほしいです。そして、映画に触発されてサイエンスにも興味を持っていただけると最高ですね」と期待を寄せた。（取材・文：編集部・倉本拓弥）