『ドライブ・マイ・カー』濱口監督、米アカデミー賞の可能性に冷静 キネ旬ベスト・テンで5冠
第95回「キネマ旬報ベスト・テン」の表彰式が2日、都内で行われ、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が日本映画作品賞第1位、助演女優賞、日本映画監督賞、日本映画脚本賞、読者選出日本映画監督賞の5冠に輝いた。米アカデミー賞への意気込みを問われた濱口監督は「賞によって作品が変わるわけではないので自分たちが何ができて、何ができなかったということを自分たちの心に留めておくというのが一番大事なことかなと思います。そのうえでもしそういう素晴らしいことがあれば、それはご褒美みたいなもの」と謙虚に答えていた。
1919(大正8)年に創刊した映画雑誌「キネマ旬報」が選出する同映画賞は、その年を代表する「日本映画」「外国映画」「文化映画」を10本、さらに「日本映画」と「外国映画」の読者選出部門10本を選出する。『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の同名短編小説を映画化。西島秀俊が妻を亡くした舞台俳優・演出家の主人公に、三浦透子が彼と出会うドライバーのみさきにふんしていた。日本映画作品賞第1位の表彰の際には、助演女優賞に輝いた三浦、濱口監督と共に日本映画脚本賞を受賞した大江崇允も壇上に上がり、濱口監督と喜びを分かち合った。
濱口監督は「歴史ある賞をいただけて嬉しい。観客一人一人に楽しんでもらいたいという思いで映画を作って来た。読者の方から『面白かった』と声をかけてもらったような気分です」と感激の表情。同作はロサンゼルス映画批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、ボストン映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞など海外の賞レースも席巻しているが、「これほど広がっていくということに驚いています。アメリカで広く多くの方に受け入れられたことも想像しなかったし、驚きでした。嬉しく思っています」と心境を述べる。
海外で高い評価を得ている理由については「一番は物語そのものの普遍性が大きかった」と分析。撮影時も村上春樹の小説の世界観を強く意識して撮影を行ったといい、「村上さんからお預かりした作品をきちんと観客の方に届けるんだという思いでやっていました」と振り返る。また、村上が同作について、あるインタビューで地元の映画館で観たと話していたことも紹介。「『3時間とても引き込まれた』、『役者さんたちの言葉、それがちゃんと口にされておかしくないような言葉になっていた』ということをおっしゃってくれていて、脚本のこともあるのですが、それを口にしてくれた役者さんたちの力だなと思います」と村上からの感想を紹介しながら、キャストの功績を称えた。
同作は米アカデミー賞ノミネーションも有力視されており、司会の笠井信輔アナウンサーから米アカデミー賞への意気込みを問われると「これはもう成り行きなので。もしそういうことがあったらありがたいことだと思います。でも、今の段階でも十分に評価していただいているのでそのことを素直に喜びたい。こういう賞の場で言うのもなんですけど、賞によって作品が変わるわけではないので自分たちが何ができて、何ができなかったということを自分たちの心に留めておくというのが一番大事なことかなと思います。そのうえでもしそういう素晴らしいことがあれば、それはご褒美みたいなものだと、いうふうに思います」と答えていた。
また、濱口監督は助演女優賞を受賞した三浦に「本当に嬉しい。素晴らしい演技をしてくれたと思います。誰がこの役を演じられるんだろうと思っていたんですけど、三浦さんとお会いした時に、目の前に本当にみさきが現れたような気がしました。(ドライバー役であるにも関わらず三浦は)運転免許は持っていなかったですが、人間性が大事だと思って彼女に決めました」と賛辞を送っていた。(取材・文:名鹿祥史)
2021年第95回「キネマ旬報ベスト・テン」受賞結果
日本映画作品賞第1位『ドライブ・マイ・カー』
外国映画作品賞第1位『ノマドランド』
文化映画作品賞第1位『水俣曼荼羅』
<個人賞>
主演女優賞:尾野真千子(『茜色に焼かれる』『ヤクザと家族 The Family』により)
主演男優賞:役所広司(『すばらしき世界』により)
助演女優賞:三浦透子(『ドライブ・マイ・カー』『スパゲティコード・ラブ』により)
助演男優賞:鈴木亮平(『孤狼の血 LEVEL2』『燃えよ剣』『土竜の唄 FINAL』により)
新人女優賞:河合優実(『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』『偽りのないhappy end』により)
新人男優賞:和田庵(『茜色に焼かれる』により)
日本映画監督賞:濱口竜介(『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』により)
外国映画監督賞:クロエ・ジャオ(『ノマドランド』『エターナルズ』により)
日本映画脚本賞:濱口竜介、大江崇允(『ドライブ・マイ・カー』により)
特別賞:佐藤忠男(70年以上の評論活動を通して日本の映画文化の発展に貢献をされた功績に対して)
読者選出日本映画監督賞:濱口竜介(『ドライブ・マイ・カー』により)
読者選出外国映画監督賞:クロエ・ジャオ(『ノマドランド』により)
読者賞:立川志らく(連載「立川志らくのシネマ徒然草」により)