巨大怪獣が死んだらどうなる?「時効警察」三木聡監督の原動力は「日々感じる不条理」
山田涼介主演の特撮映画『大怪獣のあとしまつ』(公開中)のメガホンをとった三木聡監督。これまでドラマ「時効警察」シリーズなどで人気を博し、長編映画は『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018)以来となる。新作の企画は、10年以上前から温め続けてきたもので「怪獣の死んだ後の死体を片付ける映画」という奇想天外なアイデア。三木監督が、特撮モノに親しむようになったきっかけや、撮影の裏側までを語った。
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特撮番組に直撃を受けた世代
そもそも三木監督が特撮作品に触れるようになったのは幼稚園のころから。1960年代に「ウルトラマン」や、その前身となるテレビシリーズ「ウルトラQ」、映画『ゴジラ』シリーズなどに親しんだ。「僕は1961年生まれで、『大怪獣のあとしまつ』で怪獣造形を担当してくれた若狭(新一)さんは60年生まれ、特撮監督の佛田(洋)さんは61年生まれ。その頃の世代ってテレビの特撮怪獣に直撃を受けた世代なんですよね。小学生半ばぐらいまで夢中になって観ていました。僕が特に印象に残っているのは「ウルトラQ」。怪獣ではゴジラやガメラ。もう大ブームでしたからね。今だと骨董品になっているようなビニール製の怪獣とかがおもちゃ屋さんでたくさん売られていました。僕が二十歳ぐらいのときには、アメリカで『スター・ウォーズ』のようなSFX作品が話題になって、衝撃を受けました」
三木監督が特撮作品の裏側に興味をもったのは、二十歳過ぎてから。無類のプラモデル好きでもあった監督は、それがどうすれば本物のように見えるのかと考えていたという。「怪獣同士が戦ったり、エイリアンが人を襲ったり、ああいうものはどうやって撮っているんだろうと。ストーリーやキャラクターというよりも、特撮シーンをどういうふうに撮ったら面白くなるんだろうと興味を持つようになりました。あとはプラモデルではゼロ戦、ムスタングなど飛行機をよく作っていて、その写真を撮るにしても、背景をどのようにしたら本物に見えるのかと考えていましたね」
怪獣の死体の後片付けを描くストーリーのヒント
『大怪獣のあとしまつ』で描かれるのは、ヒーローと怪獣の戦いではなく、怪獣が倒された後の物語。腐敗と膨張が進む全長380メートルの巨大怪獣の死体をどう片付ければいいのか。もはや国家規模の問題となったミッションに、首相直属の戦闘部隊「特務隊」の帯刀アラタ(山田涼介)らが挑む。企画の発端は、2008年、三木監督が映画の舞台挨拶で次回作を尋ねられた際に「怪獣の死んだあとの死体を片付ける映画をやりたい」と発言したことだった。
「ひねくれ者の癖があって(笑)。特撮モノで観る怪獣って、その後どうしているんだろうって。そんなに特殊な発想でもないと思うけど、例えば『ウルトラマン』だと怪獣を宇宙に運んで行ったり爆破したりするけど、その死体が地球に落ちてきたらどうなるんだろうと。具体的なイメージの参考になったのが、昭和40年代に『ハエの天国』と呼ばれたごみの埋立て地の夢の島。ごみを投棄し始めたころにハエが大発生して、その対処に右往左往していたというニュースか記事を目にしたことがあって。怪獣の死体もこうなるんだなと。魚一匹腐ってもすごい匂いで迷惑したりするのに、それが巨大な怪獣だったらとんでもない事態にはなるだろうと結びついていった。処理しきれないものをどうするのか。それに立ち向かう人間たちって映画的だなあと」
シミュレーションはあくまでリアルに
では、巨大怪獣の死体処理をするのは一体どんな人物たちなのか。劇中、官僚たちがそれを押し付け合う描写もあり、まずどこの管轄になるのかが問題となる。実際に作業を担うことになるのが特務隊という組織。彼らの描写についてはリアリティーをもたせるため、スペシャリストの協力を得ている。
「喜劇的な話ではあるのですべてがリアルというわけではないんですけど、フェイクドキュメンタリーのような側面もあるので、ブレインとして元自衛官の方に入っていただきました。特務隊の敬礼の仕方や動き、18時をヒトハチマルマルと表すなど呼称の部分も含め指導していただきました。あとは環境大臣(ふせえり)や秘書官のユキノ(土屋太鳳)が怪獣の死体を偵察しに行く際にヘリコプターに乗るシーンや、死体処理の作戦での無線のやりとりについては、航空自衛隊の方に来ていただいて。『こういう時には何と言いますか?』『こういう時は何が問題なるんですか?』といった風に取材させていただきました」
「あるある」やトリビアも健在
怪獣の死体処理を大真面目に描くなかで、騒動を巡る人々の反応はかなり滑稽だ。怪獣の死体が無害と報道されればアメリカが「尻尾をよこせ」と言い出したり、有害の可能性が浮上すれば近隣諸国が非難の声明を出す。状況によって、怪獣の死体がいとも簡単にゴミになったり資産になったり価値がころころ変わる。笑いを巡る描写では、「時効警察」を筆頭とする三木作品特有の「あるある」やトリビアも健在だ。例えば、西田敏行演じる首相が、おそろいのジャンパーを着用する官僚たちにツッコミを入れたり、ある場面では「土産もののマリモは手で丸めている」といった会話が唐突に出てきたりする。
「どうしても入れてしまうんでしょうねえ(笑)。不条理な描写と受け止める方もいるかもしれないけど、自分にとってはそれがリアリティーなんですよね。みな真面目に生きているようだけど、意外と危機に陥ったときに言うことがボケていたりするものじゃないですか(笑)。官僚たちのジャンパーにしたって、特撮モノを見てずっとそう思っていたんですよね。よく見る描写だけど意味はあるのかって。怪獣の死体の『希望』というネーミングも、絶対しょうもない感じのことになるよなって。そういうことに対しての揶揄、皮肉というのはつい入れたくなっちゃう。むしろ、そういうことを言いたいがために映画を撮っているようなところもあると思います」
そういう日々感じている疑問が映画を撮るモチベーションに?「疑問とか、世の中の不条理みたいなことですよね。もう思考の癖なんだと思うんですよね。監督によっては自分の思考と違うものを提示することもあると思いますが、僕の場合は思ったままのことを描く。普遍的なテーマが求められがちだけど、僕は今生きている自分の気分みたいなものを反映する。それが普遍性をそぐということであれば、それも仕方がないだろうなと。とかいって、そういうことを言い訳にくだらないことを思いつくと言いたくなっちゃうんですよね(笑)」
三木監督が、特撮作品を観て誰もが一度は抱いたであろう疑問に、壮大なスケールで答えた本作。大風呂敷を広げたストーリーだが、三木監督いわく「初めからゴールは見えていた」そうで、ラストには思いがけない光景が待ち構えている。(編集部・石井百合子)