ELAIZA、音楽で解放される今 マルチな活躍を支える人生観
女優業にとどまらず、映画監督、モデル、エッセイストなど幅広いフィールドで才能を発揮している池田エライザが、アーティストELAIZAとして新たな可能性に挑んでいる。その一つが、世界の歌姫シーアが初監督を務める映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』の主題歌「Together」を歌う日本版カバーソングアーティストという重責だ。「この作品の一部になった気持ちで歌を届けたい」と笑顔で語るELAIZAが、魅力あふれる本作の見どころとともに、ますます勢いに乗る音楽活動への意欲について語った。
本作は、“顔なきポップスター”として知られるシーアが、自身の体験をもとに原案・脚本・製作・監督を手掛け、映画のために書き下ろした12の楽曲が物語を彩る『ライフ・ウィズ・ミュージック』。祖母の急死をきっかけに、疎遠だった自閉症の妹ミュージック(マディ・ジーグラー)と暮らすことになったアルコール依存症のズー(ケイト・ハドソン)が、悪戦苦闘しながらも一歩一歩成長していく姿が描かれる。
美しい日本語で「Together」を歌うことの意義
カバーソングアーティストのオファーを受けた時は、「あのシーアの曲を私が歌う? ちょっと規模が大きすぎて、最初は意味がわからなかった」と振り返るELAIZA。「自分に何ができるのか、自分の役割は何なのか。少し考える時間が必要だったのですが、そんな時に日本語訳が送られてきて、やるべきことが明確になりました」と目を輝かせる。
「日本語には英語とは違った美しさがあると思うんです。例えば『ありがとう』という言葉。真ん中の『が』だけが濁音で、外国の方はそこに力を入れて発音しますが、その瞬間、心がパッと開いて感謝の気持ちがあふれてくるんですよね。そういう日本語特有の力みたいなもので『Together』に新たな命を吹き込むことが私の使命かなと。この作品の一部になって生きる希望を届けたいと思いました」
引きこもりの幼少時代が重なる物語に感動
肝心の映画本編にも大いに共感したというELAIZA。「人の心の中って計り知れないもの。全てが表面に出ているわけではないので、自分が想像できないこと、自分が理解できないことをもっと愛おしく思うことが大切だなと、この映画を観て改めて痛感しました。人を勝手に決めつけたり、カテゴライズしたり、それでわかった気になっているのは、とても危険なこと」と警鐘を鳴らす。
ELAIZA自身も幼少期、周りに順応できず、問題児扱いされた経験がある。「小さい時は不登校な時期もあったりして。私自身は引きこもりの生活が楽しくて、そのとき読んだ何百冊もの小説は学校で習う国語よりも面白かった。そこは他人にはわからない部分かもしれません」と述懐。「だから、ミュージックやズーが無性に愛おしくて抱きしめたくなる。根底にシーア自身の原体験があるのも説得力があるし……これで泣かないわけがない」と作品を称えた。
演技は「修行」、音楽は「解放」、このバランスがいい
2020年には、『夏、至るころ』で念願の映画監督デビューを果たし、昨年はELAIZAとしてファーストアルバム「失楽園」をリリースするなど音楽活動も本格化。そして今、目の前にいるELAIZAは、世界の歌姫シーアの曲と対峙している。いったい頭の中はどういう状態になっているのか。
「頭の中はもう大変です! それは昔も今も変わらない。何人も同時にしゃべっているし、何曲も同時に流れているし、小説も勝手に書き進めていて、曲にしたい詞もいっぱいあるんです」と苦笑い。「でも、音楽に関しては、ちゃんと『職』になってよかったなっていう思いはありますね。フィジカル的には疲れるけれど、時間を忘れるくらい夢中になれるので、むしろ心のバランスは取れています」と余裕を見せる。
ELAIZAにとって、それくらい音楽はかけがえのない存在になっているようだ。「お芝居は、自分にとって一番不向きなことをやっているような感じで、むしろ『修行』に近いですね。現場は、朝のあいさつから帰り際のお礼まできっちりしているので、なんとなく『役者道』を習いにいっているという感覚。毎回、滝に打たれているようなイメージです。でも、音楽はちょっと違う。もっと自由に羽ばたけるし、『さぁ、今日は何しようか』という解放感がある。私としてはどちらも好きだし、必要な要素。だから今、毎日が充実しているのかもしれません」
人によっては、多岐にわたるELAIZAの活動を「カオス」と呼ぶ方もいるだろう。でも、それこそが、映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』のテーマそのもの。自分の理解を超えたところにも、自分の領域を超えたところにも、人それぞれ、かけがえのない人生があり、喜びがある。ELAIZAは、自身の人生観をこう表現している。
「おばあちゃんが被爆者だったり、東日本大震災を目の当たりにしたり、いろんな災害によって傷ついた日本に対して、私なりに感じることがあって、いつしか『明日どうなるかわからない』という“備える気持ち”が心に根づいてしまったのかもしれません。だから、叶えたいことが出てきたら、すぐに対応して、勉強して、そして実行するというテンポ感を大事にしています。あまり大きな夢を自分に課して、それが叶わなかった時に自分を落とすような考え方をしたくないんです。『大志を抱きつつも、ダメな時は逃げてもいいよ』みたいな。自分の夢はあまり壮大に捉えない。でも、誰かの役に立てていれば……それくらい柔軟な気持ちで人生を楽しむことができればいいですよね」。軽やかだけれど、今日を精一杯生きようという真摯な姿勢に、清々しさを感じた。(取材・文:坂田正樹)
映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』は全国公開中