瀬戸康史、私生活の変化もプラスに 新境地で挑む曖昧な愛のカタチ『愛なのに』
爽やかな印象を持つ俳優の瀬戸康史が、R15+のラブストーリーに挑んだ映画『愛なのに』。本作で瀬戸は、女子高生に強い思いを寄せられ求婚される一方、ずっと憧れていた女性には、辛い要求をされ愛欲に葛藤する男性・多田を好演している。劇中では、髭に丸眼鏡、しなびた雰囲気を漂わせ、本格的なラブシーンも見せるなど、新たな一面を見せている。現在33歳、2020年は私生活でも大きな変化があった瀬戸だが本作を経て「なんでも挑戦してみるものだな」と大きな気づきがあったという。
【インタビュー動画】瀬戸康史、主演作で世の中の“曖昧さ”を感じた『愛なのに』
非常に曖昧な役への挑戦
城定秀夫と今泉力哉という、独特の視点で“恋愛”を描く映像作家が、監督・城定、脚本・今泉としてコラボした映画『愛なのに』。瀬戸は、女子高生の岬(河合優実)から求婚されるが、忘れられない女性・一花(さとうほなみ)を思い続ける悩み多き古本屋店主・多田を演じている。
今泉監督の台本を読んだ際、瀬戸は「すごく曖昧ではっきりしない物語だと思った」と率直な感想を述べると「でもそれってとても今の時代を反映しているのかなとも思ったんです。今って自分の意見を主張しないことで争い事を避ける風潮があるじゃないですか。それが良い悪いではないのですが、僕が演じた多田もいろいろなことから逃げて、はっきりしないですよね」と笑う。
瀬戸の言葉通り、劇中の多田は、ある意味で他人任せ。自分から結論を出さない。そのためダメだと分かっていても、欲にまみれ不毛な肉体関係を繰り返してしまうような弱さもある。そんな多田に「良く言えば人間臭さのある男ですよね。理性があれば、肉体関係に至らないのに、結局は欲に負けて関係を持ってしまう。それなのに『本当はこんなことしたくなかった』なんていい人ぶったりする。ズルいなと思う部分もあります」と複雑な感情を持って体現していたようだ。
しかし、そんな曖昧な役に「本当に振り回されてばかりいましたが、演じていてすごく楽しかったです」と面白さを感じていたというと「僕自身は多田に感情移入できました。やっぱり欲に負けたり、格好つけたりすることって人間らしいじゃないですか。自分の過去を振り返っても、学生時代とか好きな人の前でいい格好していましたから」と語った。
本格的なラブシーンも「挑戦してみるものだな」
多田を通して新たな引き出しを得たという瀬戸。さらに本格的なラブシーンも新鮮だった。「ここまで本格的なラブシーンって初めてだったんです。台本を読んだとき、正直『大丈夫なのかな』とドキドキしていた部分はありました。でも城定監督と助監督が自らそのシーンを目の前でやってくれたんです。あれは衝撃的でしたね。恥ずかしがっている場合じゃないぞってスイッチが入った気がします」。
城定監督の体当たりの熱演もあり、瀬戸が当初思っていたよりも、緊張することなくラブシーンに臨めた。「いろいろ頭で考えるよりも、実際やってみると意外と緊張しないでできるんだなとは思いました。この作品を通して『なんでも挑戦してみるものだ』というのは感じました。自分の物差しで物事を決めるのは良くないなとも思いました」。
私生活の変化は「プラスになっているような気がします」
現在33歳の瀬戸。「年々自分が好きだなとか興味があるなというものを丁寧にやってきたいと思うようになりました」と語ると「具体的にどこに惹かれたか説明は難しいのですが、この作品もラブシーンを含めて“この味食ったことないぞ”みたいな感覚があった」と本作に瀬戸の好奇心を満たせる匂いを感じたという。
こうした作品の嗜好は、瀬戸自身のプライベートの変化とリンクしているのだろうか。「周りの見え方も含めて、それもあるんじゃないですかね。当然変化ってリスクを伴うこともあるとは思いますが、僕の場合、現時点ではプラスになっているような気がします。もちろん結婚したことで、僕に興味がなくなった方もいるとは思うし、この映画のような僕を見たくないという人もいると思います。でも逆に『こんな部分もあるんだ』と受け入れていただけているのかなと感じていることが多い気がしています」。
ただ、俳優という仕事は自分から新たな一面を見せたいと思っても、うまくコントロールできるものではないという。「もちろん、自分から企画を考えたり探してきて、プロデューサーに提案したり……というやり方もあると思いますが、僕自身はそういうタイプではないので、本当にこれからも巡り合わせや縁を大切にしていきたいなと思っています」と語った瀬戸。その意味で本作は「自分にとってとても大きな出会いになったと思います」としみじみ語っていた。(取材・文・撮影:磯部正和)
ヘアメイク:須賀元子
スタイリング:小林洋治郎(Yolken)