マイク・ミルズ監督、音声トラブルに即興イラストで対応 日本の観客とリモートティーチイン
19日、A24が製作するホアキン・フェニックス主演作『カモン カモン』のマイク・ミルズ監督が、スペースFS汐留で行われたジャパンプレミアイベントにリモートで参加した。冒頭、音声がつながらないトラブルに見舞われたが、グラフィックデザイナーとしてビースティ・ボーイズなどのアートワークも手掛けたミルズ監督らしく、即興でイラストを描きながら観客とのコミュニケーションを図るひと幕もあった。この日は、本作の宣材デザインを手掛けるグラフィックデザイナーの大島依提亜が来場した。
『ジョーカー』のホアキン・フェニックス主演『カモン カモン』予告編
本作は、ラジオジャーナリストの主人公ジョニー(ホアキン)と、9歳のおいの共同生活を、温かなモノクロ映像で映し出すヒューマンドラマ。映画上映後に、米ロサンゼルスのオフィスにいるミルズ監督と会場をオンラインでつないで、観客を交えたティーチインイベントが行われたが、スクリーンに映像が投影されているにも関わらず、音声が聞こえないトラブルが発生。この間は大島が、自身の担当した宣伝ビジュアルのこだわりなどを明かすなど、トークを展開した。
ミルズ監督はその間、映像だけが復活する度に、即興で描いたイラストを披露し「映画を気に入ってくれたらいいんだけど」「みんな元気?」「みんなありがとう」といったメッセージを投げかける。想定外のトラブルに見舞われながらも、客席からはクスクスと笑い声が漏れ、温かな雰囲気が会場を包み込んだ。
しばらくして映像と音声がつながると、会場からは大きな拍手が。ミルズ監督はあらためて「遠隔ではありますが、皆さんにお会いできてうれしいです。以前、来日した時もそちらの劇場でお話をした記憶があります。本当に日本に行きたかったですね」とあいさつ。さらに「今日は技術的なトラブルにもお付き合いいただいて、重ね重ねお礼を申し上げます」と観客に感謝を伝えた。
ここからイベントは仕切り直しとなり、まずは大島からの「なぜ今回はモノクロで撮影を?」という質問からティーチインがスタート。「昔からモノクロ映画が好きでした。日本で言うと、小津(安二郎)作品が好きなんです」と語るミルズ監督は、「いつかモノクロで撮ってみたいと思っていました。今回は大人と子供の話だったので、寓話(ぐうわ)性を持たせたかったんです」とその意図を解説。「フォーカスすべきは人の顔や表情であるわけですが、たたずまいもなんだか優しくなったような実感があって。気に入ってますね」と撮影を振り返る。
その後は観客から次々と質問が寄せられ、スタッフが質問のたびにマイクを消毒する姿を見たミルズ監督は「毎回ちゃんとマイクを拭いているんだね。感動したよ」と感染対策を称賛。「子供たちに向けたメッセージ」「劇中に登場する子供たちのインタビューは何人に行ったのか」「曲の選定で意識したこと」など、ファンからの深い質問にも真摯(しんし)に答えたミルズ監督は「時間は大丈夫だよ!」と語り、予定時間を30分近くオーバーするほどに濃密な時間となった。
「映画をご覧になったお客さまとやりとりができるのはやっぱりうれしいね!」と語るミルズ監督は、観客が来ていたジム・ジャームッシュ監督作『ダウン・バイ・ロー』のTシャツを見て、「実は僕が映画監督になろうと思ったきっかけは『ダウン・バイ・ロー』なんだ。当時、あのような映画を撮りたいと思った。ジム・ジャームッシュは小津の影響を受けているけど、僕はジムを通して小津の影響を色濃く受けている」と語るなど、終始ご機嫌。最後には、モニタから見た劇場内をスケッチしてみせるなど、このトラブルを逆に楽しんだ様子。大島も「長らくお待たせしてしまうことになりましたが、結果的にはお得でしたね」と語るほどに、貴重なひとときとなった。(取材・文:壬生智裕)
映画『カモン カモン』は4月22日より全国公開