濱口竜介監督、賞の行方は「偶然に左右されるもの」オスカー発表目前
第94回アカデミー賞
授賞式を目前に控えた第94回米アカデミー賞において、日本映画初の作品賞を含む4部門でノミネートされる歴史的快挙を達成した『ドライブ・マイ・カー』。2月のノミネーション発表後、ロサンゼルスにある非営利文化団体アメリカンシネマークで、濱口竜介監督の長編監督作『ハッピーアワー』『偶然と想像』『ドライブ・マイ・カー』の3本を、オスカー本番前に上映する特別プログラムが組まれた。その初日となる現地時間の3月18日、『偶然と想像』がハリウッドに近いロスフェリツの劇場で上映され、チケットは前売りで完売。濱口監督への注目度の高さをうかがわせた。上映後には、濱口監督が質疑応答に登壇。ハリウッドの観客の前で、『ドライブ・マイ・カー』と同様に世界中の映画ファンを唸らせた短編集『偶然と想像』について語った。
第3話『もう一度』で、登場人物の立場が入れ替わるアイデアに魅了されたという司会者が、どこから発想を得たのかと尋ねると、濱口は「本当に行き当たりばったりで書いていくんです」と全く気取らない口調で話し始めた。そして、『ドライブ・マイ・カー』にも通じる会話劇の妙がどのように生まれるかを明かす。
「ある2人のキャラクターがいて、これはどうなるのだろう? と、会話を書きながら考えていくとだんだん見えてくるんです。なにがインスピレーションなのかというとちょっとわからないのですが。現実に会った人たちの会話を時より引用したりすることもあります」
昨年のカンヌ国際映画祭で『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞を受賞し、アカデミー賞にノミネートされ、2月の第72回ベルリン国際映画祭では審査員に選ばれるという、劇的な1年を過ごしている濱口監督。司会者から、偶然や運命に対する考えが変わったか尋ねられると、「わからないです。でも、『偶然と想像』という映画を作って、ベルリン映画祭のコンペに選ばれたことにも賞を受賞したことにも正直驚きました。ご覧になってもおわかりになると思いますが、この作品は決して大きな予算で作られた映画ではありませんから」とコメント。それから1年を経て、今度はベルリンの審査員を経験したことで、賞レースについての見方が変わったという。
「審査員を務めて、賞が決まるかどうかは偶然なんだ、ということがある程度わかったんです。自分が審査員でいたから、(賞の行方が)こっち(の映画)に流れたなという瞬間がありました。審査員がどういう人なのかで賞は変わってしまう。自分もその時、何か偶然があって運があって賞をもらって、今の流れが始まっているんです」
そして最後に、「自分が偶然についてわかったことは、賞は大いに偶然に左右されるものだから、期待し過ぎないようにしよう、ということですね」と会場の笑いを誘って締め括った濱口監督。オスカー本番まであと約1週間、今年の映画賞シーズンもついに最終ラップに突入といったところだ。(取材・文・写真:吉川優子/細谷佳史・Yuko Yoshikawa / Yoshifumi Hosoya)