田中圭、共感ゼロの役どう演じる?「普通じゃないほどやりようがある」
古屋兎丸のコミックを実写映画化した『女子高生に殺されたい』(4月1日公開)で、そのタイトル通り“女子高生に殺されたい”という欲望に取り憑かれた高校教師を演じた俳優の田中圭。本作で自身のパブリックイメージとは真逆とも思える役柄を演じることとなったが、オファーを引き受けるにあたっては「まったく抵抗はなかった」とキッパリ。一見“ヤバい”と感じるようなキャラクターであっても「フィクションに落とし込みたくない」と常にリアル志向を求めながら対峙しているという。田中が「どんな人、役柄も拒絶したくない」と包容力あふれる役への向き合い方を明かした。
パブリックイメージは「気にしない」
『ライチ☆光クラブ』(2016)や『帝一の國』(2017)などの原作で知られる古屋の原作を、『アルプススタンドのはしの方』(2020)などの城定秀夫監督が映画化した本作。端正なルックス、実直で気さくな人柄で女子生徒たちの人気を博しながらも、実は「女子高生に殺されたい」という願望に囚われていた高校教師の東山春人(田中)が、9年にわたって理想の殺され方を求めて完全犯罪に挑む姿を描く。
春人は、とてつもない異常性を秘めた役柄だ。引き受けるには躊躇もあったのかと思いきや、田中は「なるべくいろいろな役をやっていきたい俳優なので、まったく抵抗はなかったです。脚本、原作もとても面白かったので、これをどうやって映像化するんだろうとワクワクしました」と振り返りながら、自身のパブリックイメージを覆すことについても「自分のパブリックイメージってよくわからないですし、あまり気にしていません」とサラリと語る。
大ヒットドラマ「おっさんずラブ」シリーズでは同性の部下や上司にモテモテになるサラリーマン役で世の女性を魅了した田中だが、その一方で、二面性や狂気を帯びたダークな役柄でも存在感を発揮してきた。土屋太鳳と共演した映画『哀愁しんでれら』(2021)のモラハラ夫、鈴木おさむとタッグを組んだ連続ドラマ「先生を消す方程式。」(2020)では不敵な笑みで生徒たちを翻弄する教師など。田中は「特にリスキーな役をやりたいと思っているわけではないんですが」と前置きしつつ、「人間の業や欲、作品の持つメッセージ性が強いものは、もともと好きで。今回、完成した映画を観てもめちゃくちゃかっこいい映画になっていて、すごく好きな映画だなと思えました。城定監督、スタッフさんに感謝です」と目尻を下げる。
人や役柄に向き合う大らかな姿勢
ターゲットとなる女子高生を見つめる目つきはとりわけ印象的で、春人の暴走ぶりにくぎづけになる。田中が演じることで色香さえ漂う、不思議な魅力を持ったキャラクターになっているが、「色気は特に意識していないですね。色気を出す方法があれば知りたい!」とにっこり。一体どのように役柄にアプローチしていったのかと聞いてみると、「こういう役柄をやるときに、絶対的に自分の中でテーマになってしまうことがある」と告白する。
「例えばサイコパスだったり、俗にいう普通ではない、簡単な言葉でいうならば“変態”と言われるような役って、ものすごくやりようがあるものだと思うんです。今回も“ザ・変態”という感じで、記号として演じることもできるのだと思いますが、僕はそれが苦手で。どうしてもリアルに落とし込んでしまう。どこまでもフィクションにしたくないという思いがあり、どんな役であれ、そう捉えてしまうところは僕の強みでもあり、弱いところなのかもしれません。彼の苦悩や願望を生きられたらと思っていました」
もちろん春人は、田中にとっても「共感はできない」キャラクターだが、決して春人を撥ね付けることはしない。
「春人は“女子高生に殺されたい”という願望を突き詰めていて、僕はもちろん“女子高生に殺されたい”とは思えないけれど、ご飯をたくさん食べたい人もいれば、たくさん寝たい人もいるように、人それぞれに欲望ってあるものですよね。いろいろな癖(へき)を持っている人がいて、欲望の矛先は違えど、欲望を我慢している人もいれば、葛藤している人だっている。そう考えると、誰にでも当てはまることだとも思うんです。役づくりをする上では、その人そのものになることは不可能なので、どこまでも想像をするしかないですが、春人がある欲望を抱えているということは、想像できなくもないなと思いました」と思いを巡らせ、「これまでにもいろいろな役を演じてきたからこそ、基本的に僕はどんな人、役柄も拒絶することはない」と自身のスタンスを吐露。共感しがたい役柄であっても、しっかりとその心に寄り添うからこそ、田中の演じるダークなキャラクターは輝くのだろう。
なお、春人の元恋人役を演じた大島優子とは、ドラマ「私が恋愛できない理由」(2011)や「東京タラレバ娘」(2017)などでも共演している。田中は「僕は大島さんの旦那様(林遣都)とも仲が良いので、プライベートでも話をしたりしていて」と気心が知れている様子。「今回はキスシーンやベッドシーンがあったんです。僕自身、官能的なシーンをやるのが久しぶりで、しかも(ピンク映画を多く手掛けた)城定監督作品なのですごく官能的にやるんだろうな! と思ったりもしていて。相手は誰だろうと思っていたら、大島優子さんで。あなたですか!(笑)」と冗談めかす様子からも仲の良さをうかがわせ、「苦戦することもありませんでしたし、役者としても安心感があります」と絶大な信頼を寄せていた。
“ヨーイ、スタート”の瞬間がものすごく楽しい
現在37歳となり、映画やドラマ、舞台にとハイペースで出演作を重ね、役者道を邁進している田中。目まぐるしい日々が続く昨今について、「コロナ禍になるまではひたすら、できる限り働いていたように思います」と回顧する田中。「今は、ゆっくりと一つ一つの作品に向き合う時間も増えた。自分の時間も増えて、ちょっと物足りないなと思いながらも、すごくバランスが良くなってきている自分もいる」と充実感も。「20代の自分、30代の自分も基本的には何も変わっていない気がしますが、主演をやらせていただけるようになって、責任感は増えたように思います。皆を引っ張り、頼られる存在でいなければいけないし、逆に僕も皆を頼ることを覚えたり。40代も、自分らしく、自分の納得のいく現場でのあり方をまっとうできればいいなと思っています」と希望を語る。
どんなに忙しくとも、「“ヨーイ、スタート”がかかっている瞬間が、ものすごく楽しい。しんどいときもありますが、その間だけはすべてを忘れられます。だからこそ走り続けられるんだと思います。ここ最近は映画をたくさんやらせていただいていますが、完成した作品を観て、自分としては『めちゃくちゃ面白い』と毎回思えているので、すごく幸せなことだなと思っています」と熱っぽく話す姿から、揺るぎない俳優としての信念がうかがえた。(取材・文:成田おり枝)