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阿部寛 仕事が激減し、もがいた若手時代

「5年間くらい仕事がなかった」という阿部寛(撮影:尾藤能暢)
「5年間くらい仕事がなかった」という阿部寛(撮影:尾藤能暢)

 重松清による同名小説を、『64-ロクヨン-』『』の瀬々敬久監督が映画化した『とんび』(4月8日公開)で、愛情に不器用で破天荒な父親のヤスを演じた阿部寛。父と息子の普遍的な物語に思いを馳せ、自身の父親のこと、そして俳優になると覚悟を決めた当時を振り返った。

【動画】阿部寛「なにせモデル出身だったので…」

大きなことを決めるときは結局、親父に話す

 この原作は2011年に堤真一池松壮亮、2013年に内野聖陽佐藤健というコンビでそれぞれテレビドラマ化され、このたび初めて映画化が実現した。舞台は昭和37年、瀬戸内海に面する小さな町。愛する妻(麻生久美子)を亡くしたヤス(阿部)が、小料理屋の女将(薬師丸ひろ子)や寺の跡取りの照雲(安田顕)ら町の人と息子アキラ(北村匠海)の成長を見守る、親子の絆の物語。

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 このストーリーが長く広く支持される理由を「普遍性でしょうか」と阿部。「人間って誰しもどこか何かが欠けていたり、傷ついていたりするけど、この映画のようにそんな欠けた人間たちがひとつの大きな家族になって力を合わせて生きていくさまって、見ていて心が温まる」と続ける。そんな彼自身、以前は実家がアパート経営をしていて多くの大人に囲まれて育ったそうで、「6部屋あって住人はそれぞれにキャラクターが濃くて。母親が食事を持っていったりして交流するのを幼いころから見ていました。みんな“寛くん! 寛くん!”とかわいがってくれて」と自身の生い立ちと重ね合わせた。

阿部寛

 彼が演じたヤスは「父親の弟さんがそっくりだったんですよ」とも。幼いころはよく遊びに連れ出してくれたそうで、「釣りに行こう! って、とても上手でね。でもケンカっぱやく、釣りに行っても、帰るまでに必ず誰かとケンカするんです。小学生だった僕は慌てておじさんの家に行き“おばさん! おじさんがまたケンカしてるよ”って(笑)。やさしい人で愛嬌があって憎めないんだけど、だいぶダメなところがある。そんなおじさんを思い出しながら演じました」。

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 父親としてのヤスも隙だらけ。大酒のみで暴れん坊だが、亡妻と彼女が遺した息子を心から愛する、共感せずにいられないキャラクターでもある。そんなヤスを演じた阿部の実父は「エンジニアで寡黙で、仕事一筋。子育ても近所付き合いも母任せで。仕事で疲れて帰宅し、朝起きるともういない。でも手先が器用でね。日曜日に物置とか、なんでもつくるんです。僕も手先が器用ですけど、親父ゆずりだと思います」と現在95歳だというお父さんの若き日を懐かしむ。

 「5歳上の兄貴がいて半分父親みたいでしたが、父親とも兄貴とも、あまり話した記憶がないです。母親とはよくしゃべっていましたけど。それでこの世界に入るときもそうでしたが、なにか大きなことを決めるときは結局、親父に話すんですよね」。

同じような主役はやらないようにしていた

阿部寛

 ヤスの愛し方は不器用で父と息子は衝突を繰り返す。息子の上京を前にジタバタするヤスに、幼なじみの照雲は「親になる覚悟が足りない」と諭す。阿部自身、俳優になるときに周りの親戚は「やはり騒然となった」らしい。けれど父親は「僕は3人きょうだいのいちばん下なので“やるだけやってみなさい。ダメだったらやり直せばいい”とラフな感じでした」という。

 実際その通り、「なにも考えずに飛び込んだところがあった」という俳優業。他の俳優が「すごくこだわっている」と聞いても、「セリフを言うのに何をどうこだわるかもわからなかった」らしい。そう簡単な仕事ではないと気づくのに2~3年かかったそうで、「そこから仕事が激減し、5年間くらい仕事がなくて。30歳のころですが、どうしたらいいか真剣に悩んでいました」。

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 MEN'S NON-NO のモデル出身だったこともあって、「期待されるのはたいていが外車で乗りつけて迎えに行く、みたいな役で。これはなんだろう? と(笑)。こういう役も出来る、というのを示していかないと、幅広い役柄は頂けない。そこで極力自分から離れた役、いろいろな人間を演じるようにし、同じような主役は(オファーを)頂いてもやらないようにしていました」と阿部。

 つかこうへいさん、蜷川幸雄さんとの出会いや、15年通った古武術の稽古も大きな経験になった。「古武術は刀を抜くだけの動きもまずは1万回やる、そういう世界で。でも確実にそれは映像に映ると日々勉強させていただいた。そこからつかさんや蜷川さんの世界を経験し、芝居へのこだわりというのは一層強くなっていった。そこからは楽しくなりました」。以後の彼の活躍は誰もが知る通り。

 今後、俳優として目指すのはどんな演技なのだろう? コメディーもシリアスも、エンタメ作も作家性の強い作品も、その世界に違和感なく存在できる阿部だが、「いま57歳で。もちろんお受けした役は全力投球でやりますが、年相応の芝居をしていきたい。60歳なら60歳に見える芝居を」。具体的には「力の抜けたものをやりたいですね。例えば僕、朝ドラをやらせていただいたことがないんですよ。朝ドラみたいなものもやりたい」と言われてハッとする。阿部寛が朝ドラ! あの世界観で、どんな芝居を? すぐに実現しそうでもあって、わくわくした想像が止まらなくなった。(取材・文:浅見祥子)

阿部寛、こだわることで感じた演技の楽しさ 映画『とんび』インタビュー » 動画の詳細
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