「カムカム」ついに完結!演出家が大きな挑戦だった朝ドラで大切にしたこと
最終回を迎え、大団円で幕を下ろした連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土、NHK総合・午前8時~ほか、土曜は1週間の振り返り)。1925年に始まったラジオ放送の開始と、それから間もなく始まった英語講座と寄り添うように生きた3世代の女性の物語となった本作は、3人の女優がそれぞれヒロインを務めるという形でスタートした。「企画自体がなかなか乱暴なチャレンジでした」と笑うのは、本作でチーフ演出を務めた安達もじり。過去には「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」などにも参加してきたが、大きな挑戦だったという本作を完走した思いを語った。
連続テレビ小説の第105作「カムカムエヴリバディ」は、昭和から令和にわたる時代をラジオ英語講座と共に歩んだ祖母・母・娘、3世代の親子の100年を描いた物語。半年の放送で100年、しかも3人のヒロインの見せ場を描くということで、展開が早くなることは否めないが、そんななか非常に丁寧かつ立体的に人物を描くことで、省略した時間経過のなかでも、しっかり感情移入できるキャラクターを作り上げた。
安達は「大前提としてヒロインが3人いるという、なかなか乱暴なチャレンジだったので、どんなことがちゃんとできるのかというのはたくさん議論しました」と語る。「心掛けたのは、観てくださる方にとって優しいドラマであること」とポイントをあげる。「目指したのは、演出が姿を消すというか、あまり作り手の存在を物語のなかで意識させないようにという思いはありました。何者でもない人物、近所にいるような家族の100年を寄り添いながら観ていただくみたいな距離感が出せればなと思って日々やってきました」
そう明かす安達は「この作品に携わって学んだことは、テレビというのは、時間の積み重ねというのが大切なメディアなんだなと言うこと」だという。
その真意について「ドラマ作りには、セオリーみたいなものはあるんです。例えばここで音楽をかけて感動的にしよう、みたいな。でも、そういうことではなく、頭から時間を追って描くなかで『今はこんな気持ちで、この時間を過ごしているんだ』という人物の『気分』を無理なく表現することが大事なんだなと思いました。それは非常に繊細かつ難しいこと。毎日が鍛錬だなと、伴虚無蔵(松重豊)さんの言葉が日々身に染みている今日この頃です」としみじみ語った。
登場人物たちの「気分」を丁寧に積み重ねてきたことで、大きな感動を呼んだ。特に最終週には、るいの大阪の母とも言える竹村和子(濱田マリ)、名物ラジオパーソナリティーの磯村吟(浜村淳)、錠一郎を温かく見守っていたジャズ喫茶「Night and Day」のマスター小暮(近藤芳正)も集結。さらには、安子の父・橘金太(甲本雅裕)が闇市で盗みを許して働くことの大切さを教えた少年のエピソードなど、あげればきりがないほどの人たちの「気分」がギュッと詰まっていた。(取材・文:磯部正和)