伊藤英明、ハリウッドの巨匠と組んだ「TOKYO VICE」オーディション秘話
WOWOWと HBO Max の共同制作ドラマ「TOKYO VICE」に出演した伊藤英明がインタビューに応じ、「こんな経験はもう絶対にできない」と思ったというハリウッドの巨匠との刺激に満ちたオーディション秘話を明かした。
「TOKYO VICE」は、1990年代の日本を舞台に、大手新聞社に就職したアメリカ人青年・ジェイク（アンセル・エルゴート）が、特ダネを求めて東京の闇社会に足を踏み入れていくさまを描いた全8話のクライムサスペンス。伊藤が演じたのは、風俗街で暗躍する刑事の宮本だ。刑事の中でも一際異彩を放つ宮本は、警察担当の記者となったジェイクを翻弄することになる。
第1話で自らメガホンを取ったほか、全8話のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたのは、『ヒート』『マイアミ・バイス』『コラテラル』『インサイダー』『ラスト・オブ・モヒカン』など数々の名作を世に送り出してきたマイケル・マン監督だ。『コラテラル』をメイキングまで何度も見返すなど、マン監督作そのものだけでなく、徹底的にこだわって作品を作り上げる彼の姿勢にも魅了されていた伊藤は、「もしかしたらマイケル・マンに会えるかもしれない！」という一心で本作のオーディションを受けることにしたのだという。
そこで、宮本がジェイクと風俗店に行って女性に囲まれながら日常会話をするシーンをコミカルに演じてみたという伊藤。そのオーディションテープを気に入ったマン監督から、対面のオーディションに呼ばれることになった。「マイケル（・マン監督）からは台本とは関係なく、感情を出すために、いろんなことをやってくれと言われました。自分が思う役になり切って、水を頼んでくれ、歩いてくれ、とか。それを彼が自分のカメラで撮っていました。その時はマイケルに会えたうれしさで、舞い上がって演じられたんです」
しかし、その後呼ばれた2回目、3回目のオーディションでは佐藤（笠松将が演じた若きヤクザのリーダー）、アキラ（山下智久が演じた謎めいたカリスマホスト）と異なる役を演じることになり、他の撮影でのハードスケジュールもたたって「これはダメそうだ」と思っていたという伊藤。それでも4回目、再び宮本役で、マン監督と二人きりでのオーディションに呼ばれることになったが、今度は違ったプレッシャーが伊藤を襲うことになった。
「“マイケル・マンやハリウッドの素晴らしいスタッフたちとの仕事”がすぐ手の届くところにあるんだと思った瞬間、緊張して、何にも演じられなくなってしまって。マイケルは、1回目、そしてオーディションテープの時に見たものを望んでいたんです。『なんでそんなにナーバスになっているんだ？ あの時のもっと明るい、もっと輝く感じを出してくれよ！ それを出すにはどうしたらいいんだ？』と言われたから、『この役に僕を決めてくれたら、ナーバスにならずに演じられる』と言ったら、『See you on set（セットで会おう）』って。それで決まったの!? っていう（笑）」と巨匠とのやり取りを笑顔で振り返った。
マン監督とのオーディションは、伊藤にとってかけがえのない経験となった。「マイケルには、口先だけなのか、それともきちんと内側から演じているのかという点を見られている気がしました。例えば、恫喝するシーンだったら、『もし相手が3、4歳の子供だったとしたらどういう風になるの？』と言われたり。『こう演じてくれ』と指示するのではなく、役者の中にあるものを引き出してくれるんです。それは、英語の発音にとらわれすぎて、固まったものとして口先だけで言ってしまうと、セリフのライブ感がなくって、予定調和になってしまうからだと思います。何度も何度も演じたのですが、彼はセリフに込めたさまざまな感情を見てくれ、こんな経験はもう絶対にできないと思いました」
撮影に入ってからのマン監督は、誰よりもエネルギッシュに撮影現場を駆け回って皆を引っ張り、彼が選んだ俳優たちに全幅の信頼を置いていた。「これは僕が思っているだけかもしれませんが、日本だと、セリフを一つ間違えたら、全部“自分が悪い”みたいな感じになってしまうところがあって。自信がないから緊張してしまい、間違えないようにわざとパフォーマンスを落としてしまうとか……。ですが今回は、何回やってもいいし、NGもない。マイケルは『そこで役として輝かなければ俺の責任だから』と言ってくれたんです。だから、彼が選んでくれたという事実は、自信を失いそうな時に助けになりました。それは今もそうです」。憧れのマン監督との経験を経た伊藤が、今後俳優としてさらなる飛躍を遂げることは間違いなさそうだ。（編集部・市川遥）
ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」はWOWOWにて毎週日曜午後10時より独占放送中 WOWOWオンデマンドにて配信中