岩田剛典、初の白石組で激変!5年越しに叶った夢のタッグ 『死刑にいたる病』対談
櫛木理宇の小説を、阿部サダヲ&岡田健史のダブル主演で映画化する『死刑にいたる病』(公開中)の白石和彌監督と岩田剛典が、共に念願だったという初タッグの現場を振り返った。
本作は、鬱屈した日々を送る大学生の雅也(岡田健史)が、中学生の頃に通っていたパン屋の店主で、現在は連続殺人事件の犯人として死刑判決を受けている榛村(阿部サダヲ)に翻弄されていくサイコサスペンス。榛村から9件のうち最後の一件だけは冤罪であり、他に犯人がいることを証明してほしいと頼まれた雅也は、想像を超える残酷な事件の真相に迫るうち、抜け出せない深い闇に足を踏み入れてしまう。同作で岩田は、雅也が榛村との面会で初めて拘置所を訪れた際に出会う謎の男・金山を演じている。
白石監督は、以前から岩田の出演作を見て「運動神経が良くてアクションもできるし、経験上、ダンスの上手い方は芝居の表現力も高いのがわかっていたので、いいタイミングがあれば一緒に仕事をしてみたいと思っていました」とのことで、約2年前に今回の役をオファーした。ちなみに白石監督は、2018年公開の『サニー/32』を2017年2月頃に新潟県内で撮影していた際、岩田の人気を目の当たりにしたことがあるという。岩田が偶然、同時期に近くで別作品の撮影をしていたことから、勘違いした地元の人々が『サニー/32』の現場にたくさん集まってしまい、「ガンちゃーん!」の掛け声が鳴り響いていたというのだ。
二人の初対面はその直後、2017年3月に行われた第40回日本アカデミー賞授賞式でのこと。白石監督の作品を見て、「人の心情を切り取るのが上手く、役者もすごく生き生きとしているので羨ましく思っていた」という岩田は、新人俳優賞と話題賞(俳優部門)を受賞した日本アカデミー賞の授賞式会場で白石監督と話す機会があり、「いつか一緒にお仕事をしましょうね」と声をかけてもらったことが、俳優として大きな励みになったという。
「その頃はまだ芝居のイロハもわからず、俳優としては素人同然だったんですけど、白石監督のような方から励みになるお言葉をいただき、その日がくるまでに自分を高めておこう、そのチャンスがくるまでに成長しなくてはと自分の中で気合いが入りました」(岩田)
それから約5年。『死刑にいたる病』で白石監督から出演オファーを受けた岩田は、その時の心境をこう振り返る。「念願でしたから、何でもやらせてくださいという感じで、すごく嬉しかったです。コロナ禍で1年延期され、流れてしまう不安もあったので、こうやって完成し、一緒にインタビューさせていただけていることも、自分にとっては一つの夢が叶った瞬間でもあります。こういう時の気持ちは忘れずに活動していきたいと思っています」
同作で岩田がオファーを受けた金山役は、長髪で顔半分が隠れた謎めいた役どころ。「岩ちゃんスマイル」と呼ばれるさわやかな笑顔、パブリックイメージと大きくかけ離れたキャラクターだ。白石監督はキャスティングの意図について「少ないシーンでもインパクトを残しつつ、観ている人にいろいろなことを考えさせなければいけない役。運動神経というか、肉体の美しさも欲しかった。それに僕はご本人のイメージとちょっと違う役を演じてもらうのが好きなんです」と話す。金山のビジュアルは岩田が演じることをふまえ、ギャップやインパクトを想定して白髪まじりの黒髪となった。
実際に、岩田の演技を見た白石監督は「いろいろな要素を隠さなければいけないし、右だと思っていたら左だったみたいなお芝居も多いので、計算して演じるのは難しかったはず。また、やろうとしていることが明確だし、思っていることを何%表現できるかという肉体表現においてもアベレージが高い印象でした。一つ一つのセリフや行動などの細部にちゃんと魂を宿してくださった」と賛辞を惜しまない。一方、岩田自身は「多くを語らない役だったので自分の中で想像することが大きい部分を占めていました。怪しさを漂わせるセリフや行動も、どういう意図があるのかを自分の中でクリアになっていないと、ただ何となく怪しいだけにしか見えないだろうし、演じられないだろうなと思ったので、感情を明確にして臨みました」と役づくりに触れた。
岩田の出演が発表された際、白石監督が「またガッツリやりましょうと固く握手したのが忘れられません。岩田さんとは長い付き合いになりそうです」とコメントを寄せていたが、白石監督にあらためてその真意を聞くと「岩田さんという一人の人間の深さを垣間見られたので。俳優として、表現者として、まだまだご本人が引き出していない魅力がたくさんあると思いますし、それを見てみたいと感じることができたからでしょうね」とのこと。その言葉を受け、「すごくありがたいですね。本当にまだまだやり足りないのでまたいつかご一緒できる日を夢みて、頑張っていきたいです」と恐縮する岩田。念願だった白石監督の現場に、どんな印象を持ったのだろうか。
「プロフェッショナルな現場でした。細部に至るまで妥協がなく、何か自分が試されているような気もしましたが、しっかり環境が整えられていたので演じやすかったですし、演出も明確なので迷わなくてすみます。それでいて、役柄としてのディテールは委ねてくださる部分もある。すごく刺激的な時間でした」(岩田)
白石監督の現場で、役者が生き生きと芝居ができる理由を「一言でいうなら“監督の人柄”じゃないでしょうか」とも振り返った岩田。主演にこだわらず、さまざまな役柄に意欲的に取り組んでいるが、オファーされる役の広がりも実感しており、「今まで自分を知ってくださっている方々に、また一つ新しい一面を届けられる作品に参加できたので、この役をオファーしていただけて本当に嬉しかったです」と本作に大きな手応えを感じている様子。そして、岩田から繰り返し感謝や喜びの言葉を贈られた白石監督は、「そうおっしゃっていただけるからには、ちゃんと清く背筋を伸ばして生きて行こうと思いましたね(笑)。本当に僕も同じ思いですし、僕も努力して、また納得して出演していただけるような次のオファーを届けられるように頑張りたいと思います」と恐縮しながらも力強く答えた。(取材・文:天本伸一郎)