志尊淳「しんどいって言っていい」 コロナ禍や大病を経て変化した思い
豪華クリエイター陣が集結したアニメーション映画『バブル』で、主人公のヒビキ役に抜てきされた志尊淳。コロナ禍や大病を経て、“人に寄り添うこと”が人生のテーマになっているという志尊が、「しんどい時は『しんどい』って言っていい」と持論を明かした。
俳優にとってうれしいのは「求められること」
世界に降り注いだ泡(バブル)によって重力が壊れ、ライフラインが断たれた東京を舞台に、未知の生態と遭遇した少年ヒビキと、言葉を知らない謎の少女ウタの運命の恋を描く本作。監督をアニメ「進撃の巨人」の荒木哲郎、脚本を「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄、キャラクターデザインの原案を「DEATH NOTE」の小畑健が務めるなど、強力タッグが実現した。
「普段、アニメをあまり観ないような僕でも知っている方々ばかり」と集まったクリエイター陣に驚いたという志尊は、「僕は声に自信がないというか、やはり声の仕事のプロフェッショナルではないのでとても悩みました」と告白する。それでも飛び込む決心ができたのは、「荒木監督がものすごい熱量を持って『志尊さんがいい』『志尊さんとヒビキを重ね合わせた時に、物語が広がっていく想像ができた』と言ってくださった。そこまで求めていただけるならば、自分ができる限りのことをやりたいと思った」と荒木監督の熱意によるもの。続けて「俳優という仕事をしていると、“求められる”ということが一番うれしいことなんです。今回は初心にかえる気持ちで、できる限りの力を出して、『あとは皆さんに支えてもらうしかない!』という気持ちで挑みました」と振り返る。
志尊は、新しいチャレンジに向かうことに「抵抗がない」という。「想像もつかないような未知なものに飛び込んで、そこから新しい世界が広がっていく過程を見ることがとても好きです」とチャレンジ精神をみなぎらせながらも、自身の性格は「生真面目で超ネガティブ。もっと楽観的になれたらいいなと思うんですが、変えられるものでもなくて」と苦笑いで分析。そんな彼にとっていつも原動力となるのはファンの存在で、「僕がやることを見てくれているファンの方々がいて、作品を楽しんでくれて、喜んでくれる人がいる。そのことによって僕は生かされていて。応援してくれる人を楽しませたいという一心で、突き進んでいる。そう思いながらやっていくことが、きっと先へと広がっていくのかなと感じています」と思いを巡らせる。
“寄り添うこと”が、人生のテーマに
志尊が、俳優業に感じているやりがいの一つは「自分が見たことのない、知らなかった景色を見られること」。本作における発見について、「まず映像美に驚きました。アニメってこんなにすごいことができるんだ、日本のアニメって本当にすごいんだなと実感しました」と興奮気味に語る。
コロナ禍以前より企画の進んでいた本作だが、未知の泡が降り注ぎ、東京が封鎖され立ち入りができなくなる……というストーリー展開は、今の世の中との不思議な重なり合いを感じさせる。志尊自身もコロナ禍だからこそ一層、心に響く点があったと打ち明ける。「未知の泡が降って来て、もうその状況で生きていかなければいけないとなった時に、もちろん戸惑うけれど、その中でも誰かとケンカしたり、恋愛をしたり、思いを通わせながら必死に生きているヒビキたちを見ていると、コロナ禍の今と照らし合わせることもあって。僕は本作から、生きるパワーのようなものをもらいました」としみじみ。
コロナ禍の自粛期間中にInstagramのライブ配信をスタートさせたり、医療従事者支援として寄付をするなど、志尊は“今できること”をしっかりと形にしてきた。コロナ禍において、自身の行動や意識にどのような変化が起きたのだろうか。
「それ以前はファンの方と十分なコミュニケーションを取ることができていなかったので、ライブ配信をするのもいい機会だなと思って始めてみました。配信を見て『生きる希望を見出せた』と言ってくれる方もいて、そういった言葉を励みに『やり続けよう』と思うことができました。みんなのコメントをしっかりと読んで、キャッチしてということに時間を費やしていたので、家にいて配信をしているだけでもとても忙しかったですね。自分でやろうと決めて、それを行動に移せたことが自信にもなりました」(志尊)。
またドキュメンタリー映画『人と仕事』で、エッセンシャルワーカーへのインタビューを試みたこともあり、「コロナ禍で人との距離が離れてしまったけれど、そこで僕は、“人の心に一歩踏み込んで考えてみる”ということをしたのかなと思っています。そこで感じられたものは、僕にとって大きな経験になりました」と距離は取っても、心の“密”を育てることができたという。
いろいろな人々の声に耳を傾けたことで、「それぞれの生き方、それぞれの思いがあるんだと、改めて感じました。今までは自分とは違う考え方の人がいたら、否定はしないけれど『自分はそうは思わない』という返事をしていたように思います。考えてみると、それって相手に寄り添えてないなと思って。今は突き返すことはせずに、『なぜそういう考えをするようになったんだろう』と寄り添って想像してみる。そうすることで人としてはもちろん、役者としても、豊かになれる気がしています」と変化があったそうで、「この2、3年は、“寄り添うこと”をテーマに生きています」と真っ直ぐなまなざしで語る。
「心が和らいだという人が誰か一人でもいたとしたら、とてもうれしい」
ファンから寄せられるコメントでは、「逃げたら終わり」「『しんどい』と言ったらダメだ」という声を目にすることも多かったのだとか。志尊は「なかなか『しんどい』と声に出すことができない状況って、僕は良くないなと思っていて。しんどいなら、そう言っていいと思うんです。自分なりにやってみて『しんどい』と感じたとしたら、ではその中でどうやって生きるのか? ということが大事になってくる。どうしたって、心が死んでしまったら終わりですから。同業者を見ていても、『みんな頑張りすぎだよ』と思うこともあります。しんどい時は、きちんと休むことも必要」と心を込める。
志尊が初監督を務めた、短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season2』の一編である『愛を、撒き散らせ』は、命に真正面からぶつかった作品だった。またTwitterでは「止まない雨はない」とままならぬ世界や病気と闘っている人々に力強いエールを送るなど、志尊の行動・言動からは“生きること”に真摯に向き合っていることがひしひしと伝わる。
「僕が発信する言葉で、もしかしたら救われる人がいるかもしれません。昨年、僕自身も病気を経験したからこそ、病気と闘っている人の孤独が少しわかる部分もあって。病気をしていると、やっぱり不安になるので、一瞬でも安堵できればいい瞬間ってあったりするものなんです。同じ病気をした人の体験談や、少しでも希望のある言葉に触れると心が和らいだりする。ありがたいことに、僕はこういう仕事をしているからこそ、たくさんの人に言葉を届けることもできる。また『楽しい』と感じられるような作品を送り出すこともできる。そのことによって心が和らいだという人が誰か一人でもいたとしたら、とてもうれしいです」とやわらかな笑顔を見せていた。(取材・文・撮影:成田おり枝)
『バブル』劇場版は全国公開中、Netflix版も配信中