年に一度殺人が合法に…『パージ』生みの親が語る娯楽と社会風刺のバランス
一年に一晩だけ、殺人を含む全ての犯罪が許される法律が施行されたアメリカを描く、映画『パージ』シリーズ最新作『フォーエバー・パージ』がいよいよ日本公開。3作目まで監督を務めたシリーズの生みの親であり、本作でも脚本を手掛けるジェームズ・デモナコが、気鋭スタジオ、ブラムハウス・プロダクションらしい娯楽作でありながら、社会風刺を巧みに取り込んできた同シリーズについて、オフィシャルインタビューで語っている。
コロナ禍で公開が遅れたが、デモナコが『フォーエバー・パージ』の脚本を執筆したのは、メキシコ国境での壁建設も取り沙汰されたトランプ政権下だった。そんな本作は、これまで12時間で終わっていたはずのパージが終わらない“無限パージ”に突入してしまったアメリカを舞台に、混乱に巻き込まれた人々が6時間限定で解放されたメキシコ国境を目指す、皮肉めいた逆転劇を描く。
「スタジオは最初、躊躇したけれども、全部逆にするというアイデアが僕は好きだったんだよね」というデモナコは「メキシコに戻る。移民についての考え方も逆にしてみる。誰がどこに移住するのか。安全な場所はどこか。アメリカンドリームはどこにあるのか。夢はどこにあるのか。僕はこれを前政権下(トランプ政権下)で国境の惨事が起きている中で書いた。そういうことが全部僕の頭の中にあった」と振り返る。
本作の撮影が終わった後、アメリカでは、連邦議会議事堂襲撃事件が発生した。デモナコのもとには「あれはまさに『パージ』じゃないか。政府が暴動者に影響を与えることを君は予測していたんだね」という電話がかかってきたという。「試写をやった時も、観客は僕らがあのシーンを(2021年)1月6日の後に追加したんだと思ったようだった。『それは違う』と否定したよ。悲しいことに、この映画で起こることが、本当にアメリカで起こってしまったんだ」
移民問題や人種差別問題を軸に、無法地帯となったアメリカにおける、決死のサバイバルを描く本作。デモナコは「僕は若い時からホラーとSFは社会的、政治的な物事を語るのに適していると思ってきたんだ」と語る。「ジョン・カーペンター、ジョージ・A・ロメロ、それに1940年代や50年代の映画監督たち。彼らは娯楽作の中にそういう要素をこっそり入れる。僕とプロデューサーは、それを『パージ』でやろうとしたんだ」
ただ、プロデューサーのジェイソン・ブラムが「まず何より、怖い映画でなくてはいけない。第1優先、第2優先、第3優先、全部がそれだ」と語っているように、まず何よりも、観客を楽しませることが大事。「娯楽作の中にちょこっと、考えさせることを入れようと。人種とか、人種差別とか、格差とか、そういう政治的、社会的な物事を入れようと思った。僕らはそれをやってみせたと思う。でも、バランスを取る必要があったよ。何よりもまず、僕らはスリルたっぷりで楽しませてくれる映画にしたいからね」というデモナコは「誰かに、政治的・社会的な映画だと思わせることはしたくない。それでいつも、(そうした要素を)強めてはまた減らしてみる、などということをした。バランスを取る努力はたしかに必要だった」と語っている。
いよいよ“無限パージ”が解禁され、行きつくところにまで到達したように思える同シリーズ。続編について「4か月前(当時)だったら、絶対ノーと言っていた。僕はもう『パージ』はやらないと」というデモナコだが「でも3か月半前に新しいアイデアが浮かんで目が覚めたんだ」と続く。「ジェイソン、セバスチャン(・K・ルメルシエ)、ユニバーサルに伝えたら、みんな気に入ってくれた。だから、観客が望むなら(やるよ)。僕がいつも言っていることだけど、観客はシネマの神様で、次があるかどうかは彼らが教えてくれる。でも僕にはアイデアがあるんだよ。どうやってひっくり返し、このユニバースを少し拡大していくかのアイデアがね。さて、どうなるかな」(編集部・入倉功一)
映画『フォーエバー・パージ』はTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開中