大友監督『るろ剣』で監督賞 この10年の誇りは「ほぼ同じスタッフと走り切れたこと」
第31回日本映画批評家大賞の授賞式が30日に東京国際フォーラムで行われ、『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の大友啓史監督が監督賞を受賞。「10年のいろんな思いが報われたような気持ち」と感無量の様子で、受賞の喜びと共にシリーズに心血を注いできた心境を明かした。
『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は、和月伸宏の人気コミックを佐藤健主演で映画化したシリーズの最終章。当初2020年夏に公開を予定していたが、コロナ禍の影響で延期へ。翌2021年にようやく上映にこぎ着け、「The Final」は同年4月23日に、「The Beginning」は6月4日に公開され、コロナ禍でそれぞれ興行収入43.5億円、25億円のヒットを記録した(数字は日本映画製作者連盟調べ)。幕末を舞台に倒幕派の影の暗殺者として名をはせた緋村抜刀斎こと剣心(佐藤)の左頬に刻まれた十字傷の謎、不殺(ころさず)の誓いを立てた理由などが描かれた。
監督賞を受賞した大友監督は「去年、この映画が公開された時には、コロナ(東京などに発令された緊急事態宣言など)のために苦しい思いをしたんです」と打ち明けると、「でもその時、観客の皆さんが支えてくださった。こういう映画は改めて観客によって育てられるものだと思いました」とコロナ禍での苦境を回顧。「なかなかそれでスッキリしない気持ちもあったんですけど、最後はこうやって批評家の皆さんに評価していただけたということで。わたしとしては10年のいろんな思いが報われたような気持ちであります」と受賞に感謝の言葉を述べた。
『るろうに剣心』(2012)第1作が30億円超えのヒットを記録してから10年。2014年には『京都大火編』『伝説の最期編』の2作が公開され、それぞれ52.5億円、43.9億円と興収を更新(数字は日本映画製作者連盟調べ)。シリーズを通じて、アクション監督の谷垣健治、衣装デザインの澤田石和寛ら強力な布陣が名を連ねている。
「僕の誇りはこの10年間、ほぼ同じスタッフと走り切れたこと」だったと大友監督。「活劇というものをもう一度日本映画に取り戻したいというと大げさかもしれませんが。なかなか日本映画で突破できなかったことをスタッフ、キャストの知恵と工夫で乗り越え、ほとばしる感情や、スタッフの届けたいというエネルギーがストレートにお客さんに届けられるような。中学生の頃の自分に向けて、なんとかそういう映画を届けたいという思いで作りました」とシリーズに込めた思いを吐露した。
本シリーズには香港スタイルのアクションの影響が見られるが、「僕がアメリカで過ごした時に、香港のフィルムメーカーたちがどんどん出てきたんですよ。その理由は何かというと、やはり映画というのはセリフなども大事ですが、身体性のメディアである、ということをすり込むように教わったというのがあります」と前置きしつつ、「人間の身体性の可能性を追求していくと言葉もいらないし、海も越えていくことができる。トム・クルーズも同じようなことをやっていますが。それと同じようなことは我々にもできるんじゃないかなと思っていますね」と日本におけるアクションの可能性に触れていた。(取材・文:壬生智裕)
<第31回日本映画批評家大賞受賞者一覧>
作品賞:『偶然と想像』(濱口竜介監督)
主演男優賞:古田新太『空白』
主演女優賞:瀧内公美『由宇子の天秤』
助演男優賞:鈴木亮平『燃えよ剣』『孤狼の血 LEVEL2』
助演女優賞:三浦透子『ドライブ・マイ・カー』
監督賞:大友啓史監督『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
ドキュメンタリー賞:『くじらびと』(石川梵監督)
アニメーション作品賞:『フラ・フラダンス』(水島精二総監督/綿田慎也監督)
アニメーション監督賞:庵野秀明監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
新人監督賞:穐山茉由監督『シノノメ色の週末』
新人監督賞:阪元裕吾監督『ベイビーわるきゅーれ』
新人監督賞:藤元明緒監督『海辺の彼女たち』
新人男優賞(南俊子賞):佐藤緋美『ムーンライト・シャドウ』
新人男優賞(南俊子賞):Fukase『キャラクター』
新人女優賞(小森和子賞):伊澤彩織『ベイビーわるきゅーれ』
新人女優賞(小森和子賞):石川瑠華『猿楽町で会いましょう』
新人女優賞(小森和子賞):伊藤万理華『サマーフィルムにのって』
新人女優賞(小森和子賞):西川洋子『いとみち』
脚本賞:西川美和『すばらしき世界』
編集賞(浦岡敬一賞):堀貴秀『JUNK HEAD』
撮影賞:上田義彦『椿の庭』
特別賞(松永武賞):小倉智昭
ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞):荒木一郎
ダイヤモンド大賞:富司純子『椿の庭』