国内初、AIが書いた脚本を映画化!その魅力と可能性とは
AI(人工知能)より生成された脚本を使用した日本初の短編映画『少年、なにかが発芽する』が3月の大阪アジアン映画祭での世界初上映に続き、6月7日に開幕するアジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル&アジアにて特別上映される。その魅力と可能性は?
同作が使用したのは、株式会社Ales(本社・東京)が開発開催したストーリー生成ソフトウェア「フルコト」。開発ディレクターに東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻出身で脚本家の多和田紘希が携わっていたことから、同窓の渡辺裕子監督と筒井龍平プロデューサーに声が掛かり、研究も兼ねて実際に短編を制作するプロジェクトが立ち上がったという。
渡辺監督は脚本も手がけた短編『桃まつりpresents うそ/愚か者は誰だ』(2010)でSAPPOROショートフェスト5周年記念特別賞を受賞し、同じく同窓の濱口竜介監督『永遠に君を愛す』(2009)の脚本も担当と、筆力に定評あり。AIとのコラボは「素直にやってみたいと思った」という。
「フルコト」も脚本の知識は豊富だ。最初に既存の小説や脚本など膨大なデータを読み込み済み。そんな「フルコト」に人間が60文字程度のあらすじを入力すると、起承転結に則ったストーリーを生み出していくという。
今回のキーワードは「少年」と「トマト」。すると「フルコト」がバラエティーに富むプロットラインを吐き出してくれるのだという。その中からピックアップしたのが、タイトルにもなった“少年、なにかが発芽する”の一文だったという。
渡辺監督は「単純に自分にはない発想だったので、面白いなと思いました。ただ、支離滅裂で認知できないものも多数あって、“AIがやった”という痕跡がわかりやすく出ているものを、人間が恣意(しい)的に選んだということでもあります」と説明すれば、筒井Pも「AIが人間に対する優位性は、数が出せること。ただそれが使えるものか? となると、人間は物語の構造や因果関係など意味を求めてしまう。(整合性を考えてしまったりするので数が出せないため)そこは人間の限界なのかもしれません」と語る。
何より映画制作は、そこから撮影・編集という人間の手によって完成する。渡辺監督は「衣装ひとつとっても現場のスタッフがどう動いていいのか困るなと思いト書きを書き込みましたが、ただわたしが好き勝手やったらこのプロジェクトらしさが消えてしまう。言語で考えるのはやめにして、絵を描くような感じで、映画を描くことに徹しました」と語るが、キャスティングやロケ地、カメラワークなどを決定する中で、自ずと監督の色が出てくる。
筒井Pも「映像言語を飛躍させるのが監督以下スタッフの力なんですけど、AI脚本という無色透明な存在だからこそ、普段以上に自分なりの解釈が求められ、渡辺監督の作家性だったり、スタッフのクリエイティビティーが色濃く反映されたと思う」と思わぬ効果があったという。
ちなみに脚本のクレジットには「フルコト」と並んで、開発ディレクターの多和田紘希の名が入っているが、これはAIには人権がなく著作権を持てないための措置だという。「そういう意味では、まだ法整備の方が追いついていないんです」と筒井Pが説明する。
しかしすでに映画産業におけるAIの活用は常識になりつつあり、編集や撮影はもちろん、海外では脚本内容やキャストからある程度の興行収入を予測することも行われているという。渡辺監督も次なるアイデアが浮かんでいるようだ。
「出演者を変えずに、フルコトにまた少し異なる単語を入れて生成させた脚本で撮ったら、曼荼羅みたいに物語がつなげられないかなと思って。人間が脚本を書ける時間は限られているから、新しい技術を使った映画作りもあっていいのでは?」
少なくともAIは、アーティストにいい刺激を与えているようだ。(取材・文:中山治美)
短編映画『少年、なにかが発芽する』は6月7日~20日に開催されるショートショート フィルムフェスティバル&アジア2022にて上映。また同映画祭オンライン会場では6月30日まで配信中