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間宮祥太朗、共演者が敵から味方に 先輩の言葉で解き放たれた10代

間宮祥太朗
間宮祥太朗 - 写真:上野裕二

 映画『東京リベンジャーズ』(2021)などのぶっ飛んだキャラで大暴れし、大河ドラマ「麒麟がくる」(2020~2021)、「オー!マイ・ボス! 恋は別冊で」(2021)、「ファイトソング」「ナンバMG5」(ともに2022)などドラマ出演が相次ぎ、俳優として大きな飛躍を見せる間宮祥太朗。そんな彼が、島崎藤村の名作小説を映画化した『破戒』(7月8日公開)で3作目の単独映画主演を務めた。「いい映画」と素直な感想を持った本作について、その裏側から俳優としての在り方を劇的に変えたという出会いまでを語った。

【動画】インタビューの様子

なぜ今『破戒』を映画化するのか?

『破戒』より間宮演じる瀬川丑松 (C) 全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

 1948年の木下恵介監督版、1962年の市川崑監督版に続き、藤村による名作小説の60年ぶりの映画化となる『破戒』。間宮は、本作で被差別部落出身という出自を隠し、故郷を離れ小学校教員として息を殺すように生きる瀬川丑松を演じている。「子どものころに学校で『差別はいけません』と教えられたときは、どこかリアリティーを感じられなくて。例えば人種差別なども、自分とは遠いものと認識していました。今でも海外との距離は実際には大きいものですが、SNSの普及で身近なものとして伝わってきますよね。個人的な思いですが、そうした問題に肌で触れられるような感触がある」と、100年以上前に刊行された原作を今映画化することに納得に至ったうえで出演を決めたという。撮影が進むにつれてその理解はさらに深まったそうで、「島崎藤村も、百年後に映画化される世の中であることに驚くかもしれません」と続ける。

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 劇中の間宮は周囲に心を閉ざして生きる丑松として揺るぎなく存在するが、「丑松の出自やそれによる差別は、自分の人生でなかなか比較に値するものがなくて。想像するしかありませんでした」と振り返る。丑松は口数が多い人物ではなく、眼差しでの演技が印象的だが「ありがたいことに(前田和男)監督がキャッチしてくれたんです」と間宮。ほんのささいな目線の動き、そこから読み取れる激しい心の内まで的確に捉えたかのような映像に、カメラマン(日下誠)との相性の良さもあったのかと水を向けると、「カメラマンさんもそうですが、監督がじっと見つめる方で。じ~っと芝居を見て、いろいろなものをキャッチしてくださるんです」とスタッフとの化学反応を強調する。

ある決意を胸に教壇に立つ丑松 (C) 全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

 明治後期の文学作品が原作とあって、特に気を使ったのは「セリフの美しさ」だったという。「せっかく日本語として美しい響きのある言葉を役者がセリフとして口にしたとき、その響きが消えてしまうのは避けたい。文学作品としての品のようなものが、観る人にキチンと届くように意識しました」

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 文語体から口語体への変換は容易ではなさそうだが、「丑松としての想いを持って、でも限りなくフラットにしゃべっていました」と間宮。最もセリフに抑揚のある、ハネる印象があったのは、丑松が眞島秀和演じる思想家の猪子蓮太郎と初めて顔を合わせるシーンだった。丑松は同じ被差別部落出身である猪子に傾倒しているのだが、眞島の骨太な熱演から受け取るものは大きかったよう。泣くシーンではいつでも本気の生徒役の子どもたちもそうで、「映画の中盤まではとにかく周りの人からの言葉や目線からの影響をひたすら体内に入れるような感覚でした。体力を使うというのではないのですが、ある疲労感はあったかもしれないですね」と振り返る。

共演者は“共に演じる”存在である

写真:上野裕二

 『破戒』は、出自を隠さなければ生きていけないという呪縛に苦しんだ丑松が、さまざまな人との出会いを通して本来の自分になる物語ともいえる。間宮自身、俳優として呪縛のようなものから解き放たれた経験があったのかと尋ねると、オーディションで役を取りに行っていた10代の記憶を語り出した。「誰も僕のことを見る必要はないし、見られていない。それがわかるから、わかりやすい言葉でいうと、爪痕を残さないといけないと思っていました」

 そんな彼の考えを大きく変えたのが、2013年の舞台「飛龍伝」や2016年の舞台朗読劇「『季節が僕たちを連れ去ったあとに』~『寺山修司からの手紙』山田太一編(岩波書店刊)より~」などで共演した玉置玲央だった。稽古をして本番を迎え、先輩である玉置の姿を傍で見ていて、また目を見て芝居をしても思うところが多かったそう。そんな玉置に言われたのが、「共演者って“共に演じる”と書くんだよね」という言葉。それ以前の間宮は「共演者を敵だと思っていたのかも。でも玲央さんとご一緒して敵ではなく仲間、味方なんだなと。自分も相手にとってそうで、その相乗効果が作品をよくするのだと思ったんです」と思いを新たにした。

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 それですぐに自由に解き放たれたというわけはなく、「グラデーションですよね、徐々に変わっていった」と間宮。それまではカメラの向こう側、モニターを観る監督や完成した作品を観る観客を意識して芝居していた。そこから経験を重ね、「目の前の共演者に、例えば自分がセリフを投げるならその人の中に言葉を届けるとか、逆にその人からもらうとか。そんなところに意識がどんどん向くようになりました」という。もともと俯瞰で物事を見るところがあったが、「逆に目の前のことにもっと集中し、没頭するようになりました」とも。

 完成した主演映画『破戒』で感じたのが、「いい映画だなあ」というシンプルな感想。自身が参加した作品にはネガティブ、ポジティブな意味でもいろいろと思うところがあるらしい。けれど今回は「いい映画」というワードが、一番素直な感想だったそう。それは「作品自体がシンプルな中にも力強さがあったから」。その経験が、今後の俳優業にいかに活きるのかについては、「今後さまざまな作品に臨むなかで、あのとき『破戒』をやれてよかったなと思うのかもしれません。そういうことって、大体後からわかるんですよね」と思いを巡らせていた。(取材・文:浅見祥子)

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