『ONE PIECE』池田秀一、シャンクスとの出会いは声優の転機 赤髪に寄り添った23年間
1999年放送開始のアニメ「ONE PIECE」で人気キャラクター・シャンクス役を務める声優の池田秀一。歌声と赤髪がテーマの新作映画『ONE PIECE FILM RED』では、シャンクスの“娘”として歌姫・ウタが登場することも話題となっている。アニメ放送開始から23年間シャンクスと向き合っている池田が、劇場版の意気込みやキャラクターへの思いを語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
■ シャンクスの本格登場「少し慌てました」
Q:台本を読んだ感想は?
収録前にシナリオ台本を読ませていただいたのですが、すごくいい脚本なんですよ。いろいろなテーマが含まれていますし、今の社会に訴えかけるものもある。そういったことも含めて、すごく凝縮された作品だと感じました。
Q:総合プロデューサーを務める原作者・尾田栄一郎は、劇場版にシャンクスが本格登場するのは本作が初めてとコメントしていました。
シャンクスが劇場版に出るという話は少し前から聞いていたんですけど、いざ特報が公開されると、シャンクスの顔で映像が終わっていたので「おいおい、待ってくれよ!」と(笑)。 劇場版でも回想シーンだけ登場する程度かなと思っていたら、しっかり出番が用意されていたので、少し慌てました。
Q:シャンクスの“娘”として登場する歌姫・ウタの印象は?
実際に声を当てていく際に、(ウタと)少し距離を置きたいという感じがありました。“娘”という関係性もありますが、彼女との距離感を出せるといいなと思ったんです。劇場版はテレビシリーズとはまた別のストーリーだと私は捉えていまして、「この帽子をお前に預ける。いつかきっと返しに来い」と約束しているルフィとシャンクスの関係はもちろんありますが、それとは全く別の物語という姿勢で演じさせていただきました。
■ 23年後に巡り合えてよかった
Q:劇場版のシャンクスについて教えてください。
映画の中でもルフィに対して放った「この帽子をお前に預ける」に似たセリフが登場するんです。特別に意識はしていませんが、似たものを感じました。これは計算外でしたが、自分が年を重ねて、アニメ放送開始から23年後に『ONE PIECE FILM RED』に巡り合えたのがよかったですね。放送から3年経ってこの作品だと、全然違った印象だったかもしれません。
(シャンクスを演じる前は)割とエリートのキャラクターを担当することが多かったので、「ONE PIECE」で赤髪のシャンクス役のお話をいただいた時に「また赤かぁ」と思った一方で、エリートとは全く違いたたき上げのような雰囲気がある役柄だったので、面白いなと思いましたね。個人的には、“エリート”ではないものもやってみたかった時期だったんです(笑)。実際にシャンクスに声を当てると大変なこともあったのですが、手探りで演じさせていただきまして、とても楽しかったです。
■ シャンクスは「謎が多いからこそ」好き
Q:1999年に初めてシャンクスと出会った時のことを覚えていますか?
(「機動戦士ガンダム」赤い彗星のシャアを演じる繋がりで)“赤”という延長線上でキャスティングされたのかなという気持ちがありました。失礼ながら、当時「ONE PIECE」原作漫画も読んでいなかったので、シャンクスについてよくわからない状態だったのですが、実際にやらせていただくと、とても人間性のある男だなと思いましたね。声優として、彼との出会いは一つの転機になりました。
Q:アニメ放送開始から現在まで、シャンクスとの向き合い方に変化はありますか?
私自身あまりないですね。未だに謎の男ですし(笑)。でも、謎な部分が多いからこそ、逆に私は好きなんですよ。尾田先生もいろいろ考えてくださっていると思います。辻褄合わせではなく、23年前から(物語を)上手く組み立てていて、本当によくできている。「尾田先生の頭の中はどうなっているのか」とふと思ったこともあるくらいです。
Q:20年以上続く作品で、シャンクスがこれだけたくさんの人に愛される理由はどこにあると思いますか?
あまり登場しないということも、理由の一つなのかもしれません。だからこそ、彼に惹かれる部分がある。それと、観客やファンが希望を持てるところ。シャンクスに憧れたり、シンパシーを感じている方も多いと思います。
■ シャンクスの言葉を借りて、メッセージを届けたい
Q:長年にわたり愛されているキャラクターを多く担当されていますが、彼らの魅力を伝えるために意識していることは?
声優の仕事は与えられたものを演じるのであって、キャラクターを作ってくれないと始まらない。絵やセリフもそうですし、そういうものを作ってくださる人たちがいるから成り立つんです。そういったキャラクターたちとの巡り合いという意味では、私自身は恵まれているなと感じますし、これからも大事にしていかなければと思います。
Q:シャンクスから学んだこと、ご自身との共通点はありますか?
私はシャンクスのようにカッコよくないですし、潔くもありませんが、そうでありたい。自分の中にないものって演じられませんからね。きっと自分の内に秘めていると思っています。それらが普段出てこないだけなんです。
シャンクスを演じていて、僕のメッセージは何だろうと最近思うことがあります。歌手は自分で詩を書いて直接的に伝えますが、私たちはセリフをいただいて、キャラクターを通してメッセージを伝える。観客にとっては、セリフが設定関係なく聞こえる時があるんですよね。だから、私もシャンクスの言葉を借りて、何かメッセージを届けられるといいなって。メッセージってそういうことなのかなって思います。説明なしでも人を感動させる音楽みたいに、届くといいなって思いますね。
『ONE PIECE FILM RED』は全国公開中
(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会