タイ洞窟遭難事故を映画化『13人の命』ヴィゴ・モーテンセンらキャスト陣の挑戦
2018年6月、タイ北部のタムルアン洞窟内で、サッカーチームの少年たちとコーチの計13名が閉じ込められ、世界中から集まったダイバー、タイ軍、地元のボランティアによる決死の救助活動により救われたニュースは、まだ記憶に新しい。この救出劇を描いた『13人の命』を手掛けたロン・ハワード監督をはじめ、出演者のヴィゴ・モーテンセン、ジョエル・エドガートンら俳優陣が、映画に込められたメッセージや製作時の思い出を語った。
「脚本を読んだ時、ダイバーたちの勇敢な行動に驚かされることが多くあっただけではなく、彼らがプレッシャーのもと、際どいところで問題を解決しなくてはいけなかったことに興味をかき立てられた。技術的な問題は何だったのか、感情面でのチャレンジや肉体的な脅威は何だったのかを明らかにして、それを基にシーンを築いていったんだ」と振り返るハワード監督は「ダイバーだけではなく、何千人という人々が、力を合わせて並外れた事をした。彼らのボランティア精神や異文化間のやりとり、そして勇気に惹かれたんだよ」と本作を手掛けた理由を語る。
映画では、タイの人々や文化を大切に描こうというハワード監督の姿勢が貫かれており、オープニングは、ほぼタイ語の会話しか出てこない。コーチ役を務めたタイの俳優、ジェームズ・ティラドンは、リハーサルの前後10分間を利用して、少年役の子供たちと一緒に、寺院で学んだ瞑想を行っていたという。ハワード監督は「ジェームズは、演技経験のない少年たちにとって、撮影現場でもコーチだった」と称賛する。
観客をハラハラさせる救助シーンでは、俳優たちの希望通り、彼ら自身がすべてのスタントに挑んだという。救助を成功に導いた立役者の一人、イギリス人ダイバーのリック・スタントンを演じたヴィゴは、コロナ禍において、何か月も本人とリモートでやり取りを重ねた後、直接会って話し方や動き方を研究した。さらに、スペインにある実際の洞窟で、過酷なダイビングのトレーニングも行った。
「リックが、『タイの洞窟と岩が同じだし、状況もコンディションも同じ。冬だから水はもう少し冷たいかもしれないけど、あそこなら(洞窟潜水を)試せるよ』と教えてくれたんだ。それで撮影前に行って訓練したんだけど、これは悲惨だ。誰がこんなことを楽しんでやるんだ? クレイジーだなって思った。でも俳優としてちゃんとやりたかったからね。それに撮影をなんとか乗り切りたかった(笑)。ダイバー役のみんなが、エキスパートたちからとても熱心に学んだよ」とヴィゴは振り返る。
子供たちへ鎮静剤を投与する役割を担当したダイバーを演じたジョエルも、撮影中に救助作業がどれほど危険だったのかを思い知らされたという。「まったく何も見えない水中で、たくさんの機材を背負って潜るんだ。僕たちは(撮影のため)コントロールされた環境にいるとはいえ、どれほど危険になりうるか痛感する瞬間があった。でも楽しかったよ。子供のころ空想していたような、本物のヒーローのフリをできるんだから。映画では、ほとんどの作品で知らなかった文化や歴史、スキルを学ぶ機会を得られる。そんな仕事は他にはないよね」
実際の救助を担当し、テクニカルアドバイザーとして製作に参加した元消防士のリックは、映画で描かれていることは正確だと太鼓判を押す。「ああいう洞窟で水中にいると、あまりに視界が悪いために聴覚が強化される。酸素ボンベを動かすだけで、驚いて飛び上がるような音がするし、息づかいの音も強調される。すべてがリアルなんだよ」。
現実の救助活動では、タイの元海軍特殊部隊のダイバーが命を落とすなど、まさに命懸けの作業を、リックたちはボランティア精神だけで引き受けた。「僕たちはこういう救助を世界中でやって成功を収めてきた。だから呼ばれたんだ。やる必要はなかった。仕事じゃないから。でも、僕たちはそこへ行って(救助活動に)貢献できる世界で最も適切な連中だったんだ」
その上で、リックを演じたヴィゴは、本作が現在の世界に対して、どれだけ大切なことを伝えているかを熱く語った。「誰もがこの救助活動を、金持ちになれるからとか、新しいテリトリーや政治的なパワーを手にできるからやったわけじゃない。正しいことだからやったんだ。人間は、力を合わせれば本当に素晴らしいことができるんだということを、この映画は描いているんだよ」。(取材・文:吉川優子 / Yuko Yoshikawa)
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