羌カイの「トーンタンタン」はこうして生まれた!清野菜名のスゴ技アクションの裏側
山崎賢人主演の映画『キングダム2 遥かなる大地へ』(公開中)で、超人的な技を操る謎めいた剣士・羌カイ役として注目を浴びる清野菜名。撮影前に3か月のトレーニングを積んで作り上げたアクションシーンの裏側を、前作に続きアクション監督を務めた下村勇二が語った(※山崎賢人の崎はたつさき、羌カイのカイはやまいだれに鬼が正式表記)。
原泰久の人気漫画を実写化し、興行収入57.3億円のヒットを記録した『キングダム』(2019)の続編となる本作。春秋戦国時代の中国で秦の玉座をめぐる争いから半年後、戦災孤児の主人公・信(山崎)が、亡き幼なじみの漂(吉沢亮)と約束した「天下の大将軍」になる夢をかなえるべく、隣国・魏との「蛇甘(だかん)平原の戦い」で初陣に臨む。本作でアクション監督を務めた下村は香港のアクション俳優、映画監督のドニー・イェンに師事し、『図書館戦争』シリーズ(2013~2015)、『アイアムアヒーロー』(2015)、Netflixのドラマシリーズ「今際の国のアリス」(2020~)など多くの佐藤信介監督作品でアクション監督を務め、日本映画界のアクションに多大な影響をもたらしてきた。
清野演じる羌カイは、歩兵の信と伍(五人組)を組む剣士。哀しみの一族とも呼ばれる伝説の暗殺一族・蚩尤 (しゆう)の一人で、哀しい過去を背負う人物。羌カイのアクションシーンは、下村のイメージをアクションチームが具現化し、主にスタントダブルの坂口茉琴が清野と二人三脚で作り上げたという。最大のハードルとなったのが、羌カイの特殊な呼吸法を操る秘技“巫舞(みぶ)”を表現することだった。
「独特の暗殺術を操り超人的な動きを見せる羌カイを具現化するにあたって、まずどれぐらい原作に寄せるのか悩みました。原作に寄せるならワイヤーやVFXを多用してファンタジーでアニメチックな表現に振り切ることもできますが、そうすると暗殺術の説得力がなくなってしまう。じゃあどうしたらいいのかと考え、古武術などの身体操作を取り入れて暗殺術に説得力をもたせました。プラス、原作で印象的なアクロバティックな動きを表現することで、ファンタジーとリアリティの融合を目指しました」
下村がとりわけこだわったのが、既存の武術とアクションにしないこと。それを実現するため、清野は撮影前に3か月のトレーニングに臨んだ。「映画を観た方に『清野菜名、アクション頑張っているね』ではなく、『何この動き? 清野菜名やばくない? 本当に強いんじゃない?』と思わせる説得力と殺気を感じるアクションを目指そうと思いました。さらに、アクションを『舞う』ように見せなければならないのでそのためにはしなやかさが必要。身体操作プラス、アイソレーション(ダンスで見られるような体の各部分を独立させて別々に動かすトレーニング)や、ウェイブ(体幹を保った状態で肩甲骨を柔軟に回す動き)を入れることで、全身で戦っているように見せる。例えば、上半身を動かすときには下半身からの反動力を利用する、またはその逆といった動きを練習していただきました。それを習得するには耐えうる体を作る必要があったので、清野さんは3か月間トレーニングしたのですが、撮影が始まってからも続けていました。全身をフルに使う動きは、ワンテイクごとにスタミナを消耗していくので、羌カイのように本当に息切れしていましたね。ご自分の筋肉痛を“羌カイ痛”と言っていたくらい過酷でした。だから清野さんは本当に大変だったと思います」
羌カイといえば「トーンタンタン」という独特のリズムを刻みながら相手を斬り倒していく戦術が特徴的だが、これもまた下村を悩ませることとなった。「まず羌カイが『トーンタンタン』と直接口から発しているのか、それとも足音なのか、原作を読んでいてもはっきりわからなくて。言っているのだとしたらイントネーションはどうなんだろう?など模索しました。実際には羌カイが言っているものだったので、原(泰久)先生にもアドバイスをもらってイメージをつかみ、飛び方をリズムに合わせていきました。ワイヤーを使って浮遊感を出しているんですけど、そこもいろいろ実験しました。ワイヤーだけじゃなくゴムチューブも使ってある程度重力を感じさせた方がいいのか。それとも、ワイヤーの反発力を使って軽やかに見せた方がいいのか。カメラのスピードを変えた方が良いのか。膝の曲げ方も、どの辺りまで下げて引っ張ればいいのか……。現在の形にたどり着くまでに結構時間がかかりました」
清野とは2021年のオムニバス映画『DIVOC-12』内の『死霊軍団 怒りのDIY』でも組んでいるが、下村は清野を「アスリートみたいな方」と評する。
「ご本人もおっしゃっていましたけど、『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチを見てアクションに憧れたと。もともとアクションが好きというのもあるんですけど、身体能力が高いですし、根性もありますよね。負けず嫌いというか男勝りなところがある。普通はあきらめてしまいそうなところを自分が納得するまで追求するところがあって。それに、何事においても躊躇しない。今回の課題だった身体操作というのもアクションに精通していないとなかなか理解できないと思います。しかし、彼女は細かい部分まで理解して、努力を積み重ね僕たちの想像以上のパフォーマンスを体現してくれました。もはやアクション部の一員になっているような感覚がありましたね」
「今となっては清野さん以外に誰も羌カイはできない」と言わしめた清野のアクションシーンは、スクリーンだからこそ迫力が伝わる見せ場となっている。(編集部・石井百合子)