MIYAVI、みんなの「ワオ!」が原動力 40代迎えさらに進化
ギタリストとしてはもちろん、俳優としても世界を舞台に活躍をしているMIYAVI。原田眞人監督が深町秋生の小説を映画化した『ヘルドッグス』では、ヤクザ組織の会長・十朱義孝役に抜てきされ、シビれるカリスマ性とアクション力を発揮している。岡田准一と共演した本作の撮影を経て「もっとアクションをやりたくなった」というMIYAVIが、チャレンジを重ねる原動力や40代の展望を明かした。
カリスマ性を重視した親分役
本作は、『燃えよ剣』『関ヶ原』に続いて、原田監督と岡田が3度目のタッグを組んだクライムエンターテインメント。トラウマを抱えた元警官・兼高昭吾(岡田)がヤクザ組織に潜入し、制御不能なサイコボーイ・室岡秀喜(坂口健太郎)とバディとなって組織を上り詰めていく姿を描く。MIYAVIは、兼高と室岡が属する「東鞘会」の頂点に君臨する男を演じた。ヤクザの親分役が舞い込んできた瞬間を「無理! と思いました」と笑顔で振り返ったMIYAVIだが、原田監督の言葉に背中を押され、『ヘルドッグス』の世界に飛び込んだ。
「十朱は、ヤクザ映画と聞いてイメージする親分とはまた全然違ったキャラクター。原田監督からは『“ヘルドッグス”の世界に存在する、十朱というキャラクターを一緒に作り上げてほしい』というお話があり、十朱のバックグラウンドや生い立ち、兼高に惹かれていく過程も含めて、それなら自分なりに表現できるんじゃないかと思い挑ませてもらいました」
十朱は、鋭い目力と優美な佇まいから、組員たちを震え上がらせる迫力がにじみ出ているキャラクターだ。難役とも思える十朱に見事に命を吹き込んだMIYAVIだが、役づくりにおいては「原田監督から『地獄の黙示録』(1979)のカーツ大佐をはじめ、『東京暗黒街・竹の家』(1955)や『冬の光』(1962)などいくつか参考となる映画やキャラクターを伝えられました。『各キャラクターの存在感や佇まいを吸収してほしい』というオーダーがあり、いろいろと勉強しました」と緻密に研究を重ねた。そんな中でも「若くして組織を率いている十朱の存在感やカリスマ性を大切にしていました。また兼高への興味、関心など、彼に対する感情の変化もとても意識していた」という。
岡田准一の熱意に共鳴
潜入捜査官とヤクザが繰り広げるスリリングな物語を描く本作は、見る者を釘付けにするアクションも大きな見どころ。十朱はインテリ系のヤクザだが、机に置かれたボトルを華麗な回し蹴りで破壊するシーンは、MIYAVIの実力を堪能できる。
MIYAVIは「蹴るのは得意なんですよ(笑)」と笑顔。「小さな頃からサッカーをやっていましたし、今はキックボクシングも続けていて。あのシーンでは、ミスを想定してボトルをたくさん用意してくださっていたんですが、外すことなく蹴りが決まったので、原田監督も『ミスらなかったね』と言っていました」と述懐し、「ストーリーの中でアクセントが残せたらいいなと思っていました」と明かす。
本作の技闘デザイン(アクション振り付け)は主演の岡田が担当した。MIYAVIは「岡田くんのアクションに対するこだわりはすごい」と絶賛する。「岡田くんは武術家のようなこだわりを持っていて、見た目がどうかということよりも、リアリティーを追求している。僕たちキャスト、スタッフも、岡田くんの熱意に共鳴しながら、アクションに挑んでいました」というMIYAVIは、原田組の熱気にも感銘を受けたという「岡田くんと原田監督はタッグを重ねていますが、2人のケミストリーにもかなり影響を受けましたね。本当に熱い2人。僕も、彼らの爆発力に巻き込まれるようにして参加し、共に作り上げた作品だなと感じています」
アーティストとしてワールドツアーを成功させ、俳優としてもアンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』でハリウッドデビューを果たすなど、世界を舞台に活躍するMIYAVI。そんな彼にとっても、本作は「日本映画の良さと、ハリウッドのようなグローバルな作品が持つダイナミックさを持ち合わせた、ネクストレベルの作品」と胸を張る。
「小道具や登場する芸術作品などにおいても、原田監督のこだわりがたくさん込められています。スタッフにしかわからないくらいのレベルで、細かいヒントやこだわりが散りばめられていて、そこに原田監督の映画愛を感じます。そういった繊細さや人の温もりを感じられる点は日本映画の良さだと思いますし、一方で本作にはダイナミックなテンポ感でストーリーがどんどん展開していく面白さもある。原田監督は海外映画の良さも熟知してたくさんインプットしている方なので、それが可能になったのではないかと。本作のアイデンティティは、男たちがぶつかり合ったときに生まれる美しさにあると感じていますが、役者陣の爆発力も含め、言葉を超えてグローバルに楽しめるものになっていると思います」
MIYAVIの原動力
唯一無二のアーティスト、俳優として、あらゆるチャレンジを重ねてきた。40代に突入したMIYAVIだが、すべての原動力となるのは、「映画を観てくれる人、音楽を聴いてくれる人、そして自分が守るべき人たち。その上で地球に対して、未来に対して、自分は何をできるのか? と考えることが、僕の原動力になります」とキッパリ。
「あとはやはり『誰かを驚かせたい』という気持ちですね。『ワオ!』って思ってほしい。ライブやアルバム制作、そして難民支援においても、それは同じです。難民キャンプに行って子どもたちの前でギターを弾いて『ワオ!』と言ってくれた瞬間、そこに僕の存在意義を感じる。そして、それがモチベーションにもなっていく。今回の映画作りにおいても、ミュージシャンの僕にしか持ち込めないものを求められていたと思います。観てくれた方が荒々しいストーリーの中でキラッとした何かを感じてくれたとしたら、とてもうれしいです」
脂の乗った40代。「体との付き合い方、作品の中でのあり方など、自分のことをより分析できるようになってきた。経験値も増えていくので、50代、60代になっても、ステージごとに、それぞれの楽しみ方がある気がしています」と年齢を重ねる良さも実感している。「これからどんどん貫禄のある役や、カリスマ性のある役にもトライしていきたいですし、それが自分の音楽にも影響していくはず。もっともっと、人を抱擁できるような作品を生み出していきたいです」と未来を見つめていた。(取材・文:成田おり枝)
映画 『ヘルドッグス』は9月16日より全国公開