永野芽郁、自分の声に驚く 5本目の主演映画で体当たりの熱演
平庫ワカのコミックを実写映画化する『マイ・ブロークン・マリコ』(9月30日公開)で主演を務めた永野芽郁が、「最初は本当に逃げようかなと思った」と言うほどのプレッシャーと戦った本作の裏側について語った。22歳の若さにして、本作で5本目の主演映画となる。
文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞に輝いた平庫ワカの同名コミックに基づく本作。永野が演じるのは、突然この世から去った親友マリコ(奈緒)の遺骨を胸に、弔いの旅に出る会社員のシイノトモヨ。シイノのバックグラウンドはほとんど語られていないが、現在はブラック企業で覇気のない日々を送っている。ある日、テレビで親友のマリコがマンションから転落死したという報道を目にしたシイノはマリコの実家を訪ねて遺骨を奪い、当てのない旅に出る。
ガニマタでタバコを吸い、パワハラ上司に「うるせぇ、クソが」とぼやくシイノは、柔らかなイメージをまとった永野とはかけ離れた役柄だ。髪は根元だけが黒く、赤めの茶色。前髪は目にかかるぐらいのうっとうしい長さ。身なりに時間をかけていないシイノのビジュアルづくりでは永野自身も提案。中学生から喫煙している設定になじむため、ニコチン・タールなどの有害物質が入っていないタバコを撮影の4か月前から吸い始めた。それほど役づくりに没頭した作品だが、オファーを受けた際にはかなり悩んだという。
「わたしにはシイノがどうしてもかけ離れた存在に見えまして。どこか通じる部分もあると思うのですが、シイノが突発的に動くところや荒々しさの中に繊細さがあるようなところは自分の感覚にはなく、きっと世間の皆さんのイメージにもないと思うので、そこに飛び込んでいけるのかという不安がありました。第一に原作が大好きだったので、わたしが演じることでぶち壊しにしてしまったらどうしようという怖さもありました。『やってみよう』ぐらいの気持ちではできない。覚悟を決めていいものをつくらないと女優人生が終わるぐらいの気持ちで挑まないとダメだと思いました」
そんな永野の背中を押したのは、監督のタナダユキの言葉、そして親友マリコ役に思いがけない人物がキャスティングされていることだった。「最初は本当に逃げたいと思ったんです。監督とお話する機会をいただいて『わたしにはできないと思います』とお伝えしたら、意外そうに『え? 芽郁ちゃん絶対できるよ』と言ってくださって。説得するのではなく軽くポンと言ってくださったのがうれしくて、この監督だったらついていけるかもと。同時に、マリコ役を普段から仲良くしている奈緒ちゃんにオファーしているとうかがったので『また共演できるかも』『わたしと奈緒ちゃんだったらできる』と思い、『頑張ります』とお返事しました」
奈緒とは、永野が主演を務めたNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(2018)でも親友役として共演。永野にとって奈緒の存在はかなり大きかったようで、シイノが包丁を手に、刺し違える覚悟でマリコの父親(尾美としのり)から遺骨を奪うシーンでは奈緒と培った友情が活きている。
「マリコの実家に飾られているマリコの遺影って、シイノと一緒に撮った写真から切り取ったものなんです。二人で遊びに行った帰りに写真撮ろうよって二人で撮ったもので、マリコの顔だけが遺影になっている。その遺影を観た時に一気にマリコの記憶がフラッシュバックしたんです。それは、わたしと奈緒ちゃんの思い出をシイノとマリコの思い出として切り替えて演じていたんですけど、さんざんマリコをモノのように扱っていた父親がよくもそこに座っていられるなと。もう突発的に怒りが出た感じでした。何が何でもマリコを連れて帰るんだと、その先のことを考える余裕もないほど没頭しました。撮り終えたあとも涙が出てきそうな熱い状態がずっと続いていたのを覚えています」
撮影中に、自身について意外な気づきがあった。それは自身の声についてだ。「不思議な体験があって。自分が思っている声と、テレビや映画で聞く自分の声って少し違うんですよね。自分では低い方だと思っていたんですけど、思っていたよりも高いんだなと。けれどもシイノを演じる時は普段より低くしたかったので、かなり意識しながら演じていました。またわたしは大きな声を出すのが苦手だったんですが、マリコの父親に怒りを爆発させる場面では、本番に入ってセリフを言っていたら自分でもびっくりするぐらい大きな声が出たんです。自分で『わたしの声?』と思ったぐらいで、面白かったですね」
シイノのマリコに対する友情は決して美しいだけではなく、封印しておきたい負の側面も描かれている。だからこそ2人の絆が強く感じられるのだが、永野にとってマリコのようなダチ(親友)とはどんな存在なのか。
「その人の幸せを願えることでしょうか。そこまで親しくないと妬んでしまうこともあるし、妬まれることもある。それって何かいい流れじゃないと思ってしまうんですよね。友達だからこそ、その人の幸せを願うことができて、成功したらうれしくて。その人が悲しんでいたら一緒に悲しみながらも励ます。本当にその人のことを大事に思えるのが友達かなと」
『ひるなかの流星』(2017)から『君は月夜に光り輝く』(2019※北村匠海とダブル主演)、『地獄の花園』(2021)、『そして、バトンは渡された』(2021)、そして本作と、わずか5年の間に5本の映画で主演。先ごろ主演ドラマ「ユニコーンに乗って」(TBS)の放送を終えたばかりで、11月には戸田恵梨香と母娘役で共演する『母性』が公開される。多忙な日々のなかで「モチベーションになっていることは?」と問うと、こんな答えが返ってきた。
「わたしはただただ、お芝居をするのが好きなんです。一つの作品を終えるとまたお芝居が好きになって、同時にもっとうまくなりたいという欲が生まれるのをずっとループしている感じです。わたしが出させていただいた作品を観て前向きになってくれたり、人生の転機の一歩になったと言ってくれたり。そういう方たちがいることがモチベーションになっています。やりたいことをやらせていただいているので結果的に自分の欲でもあるんですけど、自分たちが頑張って届けたものを誰かが受け止めてくれると思うと、また頑張ろうと思えるところがありますね」(取材・文:編集部 石井百合子)