相葉雅紀がコミュニケーションで大切にしていることとは?『“それ”がいる森』【インタビュー】
相葉雅紀が、約8年ぶりに主演を務めた映画『“それ”がいる森』で、『リング』『事故物件 恐い間取り』の中田秀夫監督の下でホラーに初挑戦した心境や、息子とのコミュニケーションに苦戦する父親を演じたことにちなみ、理想の父親像やコミュニケーションで大切にしていることなどを語った。
相葉雅紀、息子を思う優しい父の顔!『“それ”がいる森』場面カット
本作は、ある田舎町で不審死や子どもの失踪事件が続発し、森の奥で得体の知れない“それ”と遭遇した主人公が怪奇現象に巻き込まれていくというストーリー。相葉はホラー映画初挑戦となるが、「すごくうれしかったですし、やったことのないジャンルに初めて経験させていただけるならぜひ挑戦してみたい! と。光栄なことで、覚悟を持って参加しました。それでなにより“それ”をどういう風に撮影するのだろう? と楽しみにしていたんです」と振り返る。
いざ撮影に入るとイメージしていたホラー映画の撮影現場よりだいぶ明るい雰囲気だったようで、「中田監督を始めとするスタッフのみなさんはホラーに強い方ばかり。『どういう角度で、どう撮れば怖くなる?』『恐い恐い』などと、セッションしながら撮影を進めていくのを見てテンションが上がりました」と振り返る相葉。中田監督の演出も「『もうちょっと目を見開いて』とか『恐怖度を○○%上げて』と、表現の強度を具体的に指摘していただくのが新鮮でした。僕自身はホラー映画を撮っているという構えはさほどなく、1シーン1シーンに緻密な絵コンテがあったので安心してついていくというか、監督のつけてくださる演出に応えることに専念していました」
彼が演じるのは、一人暮らしをしながら農業を営む田中淳一。ある日離れて暮らしていた小学生の息子、一也がやってきて、しばらく生活を共にすることになる。「父親としての淳一の成長物語でもあったため、キーとなる部分を探しながら演じていた」といい、中田監督によると、クランクインして2日目からいろいろとアイデアを出したとか。「そう聞くと、ずいぶん早い段階からだったと、自分でも改めて驚きますけど」と前置きしつつ、「お話の全体を通して、田中淳一という役を考えて。まず淳一は一人暮らしが長く、父親である実感が湧いていませんでしたが、そこから“この子を守らなきゃいけない”と強く思うようになるポイントについて。もうひとつはクライマックスで一也と話し合うシーン。そのときに“もうひと押しあるといいのでは?”と相談させていただきました」と一也との関係性について、監督と慎重につめていった。
淳一は、離れて暮らしていた息子との関係性に苦悩する父親。そんな淳一を演じた相葉自身は「ピリピリしてるね! と言われることはあまりなく、ゆるキャラ的な感じなのかも。もちろん怒るときは怒るし、腹の立つことはあるけど、あまりそう見られないようです」と笑う。ふだん、コミュニケーションについて意識するのは、「基本的なことですけど、人にされて嫌なことは人にしない、そんなことくらいでしょうか。どんどんコミュニケーションを取っていくイメージを持たれることが多いですが、そうでもなくて。“この人、話やすいな”とか“この人のこういうところをもっと知りたい”と思ったら自分から行きますが、手当たりしだいにオープンです! という感じでもないんです」と打ち明ける。
また理想とする父親像について尋ねると、自身の父親に思いをはせ、「幼いころから英才教育を受けていたら……と思ったこともありますが、一通りの習い事を浅くかじった、みたいな感じで。実際にはわりと自由奔放に育ちました。父親に対して、特に不満はありません。いま僕が振り返るとそう思いますが、違った人生を歩んでいたら“不満だ”と言っているかもしれない。なにが理想かはわからないですね」
そうして改めて作品を振り返り、「いわゆるJホラーとはまた違う怖さで、僕は好きなタイプです。“それ”の正体も」と手応えを感じている。そんな彼自身、「実は霊感が強かったんです、若いときは」とも。国分太一がMCを務めた番組で「心霊スポット巡りみたいなコーナーを担当していて、あり得ない体験をたくさんしました。家で金縛りにあったり、写真館でパスポート用の写真を撮ろうとしたら『ゴメンなさい、カメラが壊れちゃったのかわからないけど、写らないですね……』という経験もあります。でも今回の現場で霊感体験はありませんでした」と怖いものが苦手という彼は胸をなでおろす。
そんな彼が、これまで生きてきていちばん怖かった経験は、「ジャニー(喜多川)さんに怒られたことです(笑)。でも僕が悪いんです。プラチナチケットであろうラスベガスの舞台に連れていってもらったんですけど、舞台が始まり、暗転と共に寝ました、時差ボケで」と振り返る。
当人にとっては本気で恐怖の体験も、彼が語るとどこかほのぼのとした笑い話になる。それでいて仕事のこと、今回取り組んだ演技についての話になると、一瞬でキリっとした表情に変化する。「いわゆるハードな話も、例えば『北の国から』のような人間ドラマも、あらゆるジャンルの作品が好きなんです。エンターテイメントというものが。だから今後もいろいろな作品に、いろいろな役に出会いたい。どの役も同じではなく、まったく違うイチからの作業で、いつでもその繰り返しです。でもきっとどこかに、これまで得た経験が身体に入っている。その経験は、表現するときに活きるはずです。そうして新しい役と出会ったら、それをどこまで深化させられるか? 昨日よかったからといってそれをなぞっても同じようによくなるわけではありません。本当に、毎日が戦いのようです」。そう語る顔は“ゆるキャラ”からは程遠い厳しさが漂った。(取材・文:浅見祥子)