稲垣吾郎主演『窓辺にて』タイトルの意味は?今泉力哉監督、映画誕生の裏側明かす
第35回東京国際映画祭
『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉監督が稲垣吾郎を主演に迎えた映画『窓辺にて』(11月4日公開)が29日、都内で開催中の「第35回東京国際映画祭」で上映され、今泉監督が観客との質疑応答に登壇。映画が誕生するきっかけや、シンプルなタイトルに込めた思いなどを明かした。
映画祭のコンペティション部門に出品された本作。主人公は、妻の浮気を知りながら動じない自身にショックを受けるフリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)。彼が、文学賞を受賞した女子高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)との出会いを機に、何事にも鈍くなっていた感覚を取り戻していく。
客席からユニークな質問が多数飛ぶなか、『窓辺にて』というタイトルの意味について問われると、今泉監督は「これはおのおのが自由に受け取ってほしい」と前置きしつつ、「基本的に明るい話ではなくて、何かをやめていくことだったり、別れるか別れないで迷ったりとか、ベースとして悩んだり重い空気になるものがある」と感じたことがきっかけだったという。「そんな話の中、冒頭の喫茶店の光だったり、ラブホテルの朝方の光とか、バーっと光が入るというのは、その人の心情に関係なく、天気さえ良ければ、光さえあれば、穏やかなものになる」と思い、シンプルなこのタイトルに落ち着いたと説明した。
今泉監督は、「創作の端を発した」きっかけも紹介。映画が生まれるきっかけとなったのは自身の恋愛観が深く関係したといい、「10年くらい前、自分は結婚しているけど、奥さんがもし浮気した時に、自分は悲しんだりとか怒ったりという感情が湧くかなって思ったのがきっかけでした。意外と平気でいられちゃうかもしれないと思ったところがベースになっている」と振り返る。
今泉監督は「人と付き合っても自分は長く付き合うことがなかった」という当時を思い返すと、「今の奥さんと結婚する前は一年間とか付き合ったことがなくて、すぐに一人になりたくなってしまうところがあった」と話す。「一人の方が楽だったり安定していたりするんです」とその理由も説明し、「すごく極端な考え方なんですけど、誰かと結婚していたり、誰かと付き合っている時間って、ルールとして、誰かを好きになってはいけない時間でもある。それが自分には理解できなかった」とコメント。「いつだって人は人を好きになる。誰かと付き合っているときは誰かを好きになってはいけないってどういうこと? って。その縛られる感じが『無理じゃん』ってなってしまった」と持論を展開していた。
今年のコンペ部門は、2022年1月以降に完成した長編映画を対象に、世界107の国・地域から応募のあった1,695本の中から15本が選出。舞台演出家で映画監督のジュリー・テイモアが審査員長を、シム・ウンギョン(俳優)、ジョアン・ペドロ・ロドリゲス(映画監督)、柳島克己(撮影監督)、マリー=クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル(元アンスティチュ・フランセ館長)が審査員を務め、東京グランプリ/東京都知事賞をはじめ、各賞が選ばれる。日本映画では『窓辺にて』のほか松永大司監督、鈴木亮平&宮沢氷魚共演の『エゴイスト』、福永壮志監督、山田杏奈主演の『山女』が出品されている。(取材・文:名鹿祥史)