「仮面ライダーBLACK」リブートへの挑戦 白倉伸一郎プロデューサー&白石和彌監督 ビルゲニアは「伝説に残る」
Prime Videoでついに配信が始まった「仮面ライダーBLACK SUN」。昭和の末期に放送された「仮面ライダーBLACK」は、その独特の世界観や設定、斬新なキャラクター性で今も高い人気を誇るが、令和の時代に、テレビから配信へとメディアを変えて、いかにしてリブートされたのか。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』など、社会の暗部を鋭く描きつつ、優れたエンターテインメントに昇華させてきた白石和彌監督と、平成仮面ライダーシリーズを牽引してきた東映の白倉伸一郎プロデューサーの両名が企画から撮影まで「仮面ライダーBLACK SUN」の裏側を語った。(取材・文:トヨタトモヒサ)
きっかけはシャドームーン!白倉P×白石監督「仮面ライダーBLACK SUN」【動画インタビュー】
「BLACK」全話を観返して挑んだリブート化
テレビの仮面ライダーシリーズは平成から令和になり、現在、最新作「仮面ライダーギーツ」が放送中だが、一方で、Prime Videoで配信された「仮面ライダーアマゾンズ」、2023年公開の『シン・仮面ライダー』と、様々な形でリブート企画が動いており、そんな中、「仮面ライダーBLACK」もリブート化を目指して企画が進められていたという。「現代に蘇らせるにせよ、換骨奪胎するにせよ、何を切り口にすれば良いか思い悩んでいた矢先に巡り合うことができたのが白石監督でした」と白倉プロデューサーは語る。
また、リブートの指針として、白倉プロデューサーは白石監督に「『BLACK』については考えず、”白石ワールド”として自由に作っていただきたい」と伝えたが、白石監督はオファーを受けた後で「BLACK」全話を観返した上で打ち合わせに臨み、結果、紛れもない「白石ワールド」でありつつも、「BLACK」の要素が色濃く反映されるに至った。白石監督は「やっぱりシャドームーンとBLACKの関係には引き込まれましたね。幼い頃から兄弟同然に育った2人に待ち受ける宿命の対決というビターな物語、また、それまでとは異なる怪人造形の在り方も非常に斬新です」と、その魅力を分析。逆に公式サイトで「50年の歴史に隠された創世王と怪人の真実」と触れられた部分については、「BLACK SUN」のオリジナル要素が強く、「2022年」と「1972年」と、50年を隔てた二つの時間軸を交錯させつつ、物語が展開していくのが特徴となっている。とりわけ1972年の場面には、若松プロの系譜に連なる白石監督のカラーが如実に表れていると言えるだろう。
「白石ワールド」としての特撮ヒーロー作品
オリジナルの「BLACK」をリスペクトしつつ、全編、濃厚な“白石ワールド”に包まれているのは、もうひとつ理由がある。本作では全10話を全て白石自身が監督しているからだ。たとえば、「市川崑劇場」と銘打った、かの「木枯し紋次郎」も全18話(※第1部)中、市川自身がメガホンを取ったのは4話に過ぎない。白石がメイン監督を務めたテレビドラマ「フルーツ宅配便」(全12話)も、3人の監督でまわしている。著名な監督が総監督や監修などのクレジットで関わるケースはあれど、実際に全ての話数を監督するのは、こうした連続ものでは意外にも珍しい。白倉プロデューサーも当初は、「普通シリーズものは複数の監督がいらっしゃって交代していやっていくもので、今回も頭を仕切っていただき、『白石ワールド』を作っていただくつもりでした」と明かすが、コロナ禍で監督が抱えるスケジュールが崩れたことが幸いし、“全話監督”が実現した。それについて白石監督は「やっぱり自分で全てを監督できるならそれに越したことはありませんからね。体力的にも精神的にも大変な旅路になるのは覚悟していましたが、何より人に撮らせたくなかった」と、率直な思いを覗かせた。
また、いわゆる「ニチアサ」、現在の東映の特撮ヒーロー作品は、系列の「東映テレビ・プロダクション」が制作を行っているが、本作は制作プロダクションとして「角川大映スタジオ」が参画している。東映特撮ファンクラブの配信作品「鎧武外伝 仮面ライダーグリドンVS仮面ライダーブラーボ」等をROBOTが制作した例もあるが、大々的に外部の制作プロに委ねるのもまた新たな挑戦である。その点について白倉プロデューサーは「普段の我々のやり方ではないチームなので、『うちだったらこうやる』と思う部分がある一方、勉強になる部分も多々ありました。同じ映画会社といっても文化伝統が随分違うものがありますね」と語るが、それは実際の映像を観てもらえれば、一目瞭然だろう。
そんな中、美術の今村力、特殊メイク(本作では造型)の藤原カクセイ、『麻雀放浪記2020』でも組んだ撮影の馬場元など、白石組でお馴染みのスタッフが脇を固めており、「みんな普段やってない世界観での仕事だったので、生き生きと楽しくやってくれましたよね」と白石監督。日常の景色として登場する、高架下のセットも白石監督が「ものすごく作り込んでくれた」と絶賛する他、ゴルゴムの創世王の間も圧巻だ。「創世王は、特撮監督の田口清隆さんと『合成したほうがいいんじゃないか』と話していたんです。ただ、合成で全話を通すのは、それはそれで大変だし、最終的にカクセイさんにお願いして、巨大な造型物を用意してもらったのですが、それは大正解でしたね」。
「仮面ライダーBLACK SUN」は怪人に注目!
作品には、仮面ライダーBLACK SUN、SHADOW MOON はもちろん、人間と怪人が共存する日本が舞台となるため、いわゆる敵となるゴルゴム怪人以外にも様々な市井の怪人が登場する。ある意味、「怪人ドラマ」と呼んでも差し支えない。劇中には、ゴルゴムを辞めた怪人同士が「お前明日からどうすんだ?」と酒を酌み交わす場面もあるという。当然、キャラクター創出の過程においても様々なディスカッションが行われた。
「世界観を作る上で、自分でどこまでやりきれるか、ちょっと勝手がわからない部分もあったので、コンセプトビジュアルとして樋口真嗣さんに入っていただけたのは、有難かったですね。怪人のデザインひとつ取っても、こういう段階を経て決まって行くのかと、驚きがありましたね」との白石監督の発言に対して、白倉プロデューサーは「白石監督は、こうしたキャラクター作品をやったことがないと卑下していらっしゃいますが、パターン的な引き出しから材料を出すのではなく、根本的なところを掘り下げていこうとされるんですよね。それは、樋口さんしかり、特撮監督の田口さんしかり、造型のカクセイさんしかりで、どんどん掘り下げていく」と本作での決して妥協しない、それぞれの仕事ぶりを高く評価する。
多種多様な怪人が登場する中、両名がお気に入りの怪人として挙げたのがビルゲニアである。白石監督は「宿題だったビルゲニアは『BLACK』のビルゲニアよりカッコイイ結末を迎えます」と自信のほどを述べ、白倉プロデューサーも「ビルゲニアに思わず涙! こんなにキュンキュンしていいのか。こういう最期を迎えたい」とビルゲニア愛を炸裂。両名とも「これは伝説に残る!」と口を揃えた。
キャラクター作品である以上、特撮、アクションと現場で采配すべき要素も多岐に亘るが、白石監督によれば「作業自体はとても楽しい時間でした。特撮に関しては、田口さんが上手く橋渡しをしてくれ、現場にもほとんど立ち会っていただきました。それこそ、変身となると『田口さん、お願いします!』と言った感じでしたね」と、その仕事に全幅の信頼を寄せた。
アクション面では『狐狼の血』でも組んだ吉田浩之が統括(※スタントコーディネーターとしてクレジット)しており、白石は「怪人役には、いわゆるスーツアクターとしての経験がある方もいらっしゃるのですが、普段はアクション部として活動している方を中心に来てもらい、吉田さんとは華麗で様式美に則ったアクションではなく、暴力的で泥臭い立ち回りを探っていきました」と、従来のアクションとの差別化をアピールした。実際に昆虫の動画を見て、造形物同士の戦いに落とし込むといったアプローチもなされたといい、白倉プロデューサーも「どの怪人にも特徴がきちんと表れているし、各話でのバトルは全て見応えあるものになっています」と、完成した作品を絶賛した。
白石監督が、今この時代に怪人が生きていたら、どういう世界になっているかを想像しながら作り上げた「仮面ライダーBLACK SUN」。両名は、本作の見どころをこう語る。
「社会の歪みを浮き彫りにしながら、エンターテイメントとして、最初から最後まで一気に楽しめる作品になっていると思います」(白石)
「序盤の第1~3話でワクワクし、最後の第8~10話で盛り上がるのはある意味で、当たり前なんですけど、真ん中の第4~7話がすごいんです。自分としてはその疾走感が堪らなくて、その辺りは是非オススメしておきたいですね」(白倉)
「仮面ライダーBLACK SUN」は Prime Video で全10話独占配信中