バンドマン志望からディズニーへ カタカナ併記の日本人アニメーター・ヨーヘイの飽くなき挑戦
ディズニー・アニメーション最新作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(公開中)の本編終了後に流れる英語のスタッフクレジットでは、「YOHEI KOIKE ヨーヘイ」とカタカナ併記された日本人が登場する。その正体は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオでアニメーターとして働くヨーヘイだ。バンドマンを夢見ていたという彼が、どのような経緯でアニメーターを目指すようになったのか。ヨーヘイがリモートインタビューに応じ、自身のキャリアとディズニーでの仕事について語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
【画像】ヨーヘイが担当したシーンも!『ストレンジ・ワールド』予告編
■「自分がやりたいこと」ではなく、「周りが自分にやってほしいこと」をやろう
Q:ヨーヘイさんはディズニーでどんなお仕事をされているのでしょうか?
キャラクターアニメーターです。才能のある方々がキャラクターの形をパペットとして作ってくださるので、それを動かしながら命を吹き込んでいきます。
Q:もともとバンドマンを志望していたそうですが、アニメーターの道へ進むきっかけ、海外を意識し始めたのはいつですか?
バンドマンという夢に向かって頑張っている中で、社会で認められたい気持ちがありました。ある時、他人の人生に深く関わることがありまして、そこで一人の方に感謝された時、何千~何万の人に認められる必要はないということに気づいたんです。それがきっかけで「自分がやりたいこと」ではなく、「周りが自分にやってほしいこと」をやろうと決めました。たまたま、自分がCGに触れた時、周りがストレスを感じるような作業を自分は苦なくこなせて、「CGならアメリカだ」と消去法でアニメーターの学校に入りました。その後、一つ一つ削ぎ落としていき、流れるままにアニメーターとなりました。
Q:アニメーターとしてやりがいを感じた瞬間は?
オーディエンスが(作品を)観て泣いてくださったり、「心に残ったよ」と言ってくださるのはすごく嬉しいです。エンタメは海を簡単に越え、人を魅了してくれる。世界平和の一端に繋がっている実感があるので、携われること自体がすごく光栄で、仕事していて意味があるなと思っています。
■アニメーターから監督への提案も
Q:『ストレンジ・ワールド』に携わることになった経緯を教えてください。
前職の頃からいろいろとアクションを起こしていて、そこで友人からお誘いをいただき、本作に参加することになりました。
Q:ご自身が担当されたパートはどこですか?
予告編にも含まれていますが、メインキャラクターが触手がたくさんあるモンスターに囲まれてその間を駆け抜けるシーンや、崖から飛び降りるシーンなどを担当しています。
Q:ご自身が担当されたパートで最も大変だったことは?
触手がたくさんあるモンスターです。一体につき触手が10本あるのですが、それを5体同時に担当しなければならず、トータルで50本の触手が動いている状態です。本当に厳しかったのですが、他の人たちがやりたがらない場所を任せていただいたので、最後の方は光栄でしたね。「自分がやってやるぞ!」という気持ちでした。
Q:本作の監督であるドン・ホールとはお話されましたか?
ディズニーの良さとして驚いたことなのですが、監督とも直接お話ができるんです。自分の担当したショットを見せて「こんな感じでやろうと思う」とか、「ここをこうした方が面白くなるのでは?」という提案もアニメーター側からできるんです。ディズニーの長い歴史があるからこそ、アニメーターに対するリスペクトがあり、監督から「いいね、じゃぁそうしよう!」ということも起こり得る。非常に柔軟なことだと思います。
■学びを続けていけることが本当に嬉しい
Q:スタジオの雰囲気はいかがですか?
非常にアットホームな感じです。歴史ある会社なので、すごく堅いイメージがあったのですが、 (取材日当日も)感謝祭でランチを提供してくれて、みんなで食事をしました。監督も廊下を歩いているので、挨拶を交わしたりするなど、ヒエラルキーを全く感じません。ゲストを招いてスタジオを歩けたりするので、社員を信用している感じもあります。
Q:日本には「将来海外で働きたい」「海外でアニメーターの仕事に就きたい」という方がたくさんいらっしゃいます。海外でアニメーターとして働くヨーヘイさんから、アドバイスを送るとしたら?
英語学習ですね。重要性は前から言われていますが、リモート化が進み、インターネット越しに仕事ができる機会が増えてきたので、別の言語が話せることが、今後もすごく大きな差につながってくると思ってます。実際スタジオで働いていても、周りの人たちと円滑なコミュニケーションを取る上で、流暢に話せることはものすごくアドバンテージになります。私は日本での英語学習が上手くできなかったので、プライドを捨てて「赤ちゃんに戻る作戦」で渡米し、ブロークン・イングリッシュで学んでいきました(笑)。たまたま、それが学習法として自分にフィットしましたね。
Q:アニメーターとしての今後の目標は?
目に映るもの・動くもの全てがアニメーションなので、やったことがあることだけで終わることは100%あり得ないんです。 何か新しいことが目の前にあるので、続けている以上は新しい気づきが常にあります。そういった意味では終わりがないので、学びを続けていけることが本当に嬉しい。アニメーターと並行して、日本に向けた教育もやっているので、それも続けていきながら、最終的にはディレクションも勉強できればと思っています。