柴咲コウ、「Dr.コトー診療所」から16年経た今の生き方
映画『Dr.コトー診療所』で看護師・彩佳を演じる柴咲コウが、作品への愛やドラマ出演を経て16年たった現在の女優業などについて語った。
2003年に始まった連続ドラマ「Dr.コトー診療所」は、絶海の孤島に赴任した一人の医師と、島の人々とのつながりを描いた医療ヒューマンドラマ。シリーズ2本、スペシャル2本が放送され、大きな共感を得たまま16年。いま、新たに映画として紡がれる物語には、主人公の「Dr.コトー」こと五島健助役の吉岡秀隆をはじめ、オリジナルキャストが集結。柴咲演じる彩佳は、本作でコトー先生の妻となり、妊娠中という設定だ。
「テレビシリーズを観てくださっていた方々の愛情を、改めて感じています」とうれしそうにほほ笑む柴咲は、「時が止まっていたようでいて流れていたことや、コトーチームが16年ぶりに再会したことの喜びを、SNSなどで伝えてくださるファンの方がとても多くいらっしゃいます。わたしも同じ気持ちです」と語る。16年間、ずっと彩佳を抱えていたわけではなかったが、「久しぶりー」と役と対面し、その立ち居振る舞いや声のトーンを思い出し、彼女の上に流れた時の重さや子どもを身ごもっている気持ちを1つずつひも解いていった。「美術やロケーションの力も大きかったです。そこに身を置くことで、自然と彩佳になれました」と、気負うことなく演じたことを明かした。
彩佳は、学生時代や闘病していた時期を除き、ずっと島で暮らしている。「東京にいたときは孤独感や悲壮感が漂っていました。あれは異質だったなと思っていますし、だからこそ、島民みんなと家族のように過ごすのがしっくりくるという対比になったと感じています。彩佳はあの島が好きで、あたりまえの責務として先生のサポートをするのが染みついていますよね。それはもう、運命です」と、彩佳の16年を思いやった。
当然、柴咲の上にも同じように時間は経っているのだが、「自分は地続きなのであまり感じなくて、『16年なんて嘘だ、3年くらいじゃない？』と思うときもあります」と笑う。「年を重ねれば重ねるほど、1日があっという間に終わってしまうので、この人生を本当に100パーセントで生きてるのかと、考えることは大事です」と述懐。さらに「性格的に現状維持は好きじゃないので、常に未来志向です。“いま”も大事にしつつ、向上心や好奇心は常に持っていたいですね。それによって若々しくいられるし、新しい出会いもある。脳の刺激にもなります」と前向きな考え方と生き方を示す。
昨年から40代に突入しているが、そこに気負いはない。「実生活とは違うお母さんの役が来たりするようになりました。お芝居は、自分の中の引き出しを最大限増幅していく作業ですから、ギャップやずれみたいなものは確かにあります。ただ、いただいたお話に魅力があったらかかわっていきたい。自分の思いと合致するものであれば参加したい、というのは変わらないです」と思いを語る。
自身の活動の芯にあるテーマは、「美しい世の中を作りたいという気持ちです」と言い切った。それは「作品の何に惹かれるかといったら、訴えかけてくるテーマ性です」とし、「たとえば『Dr.コトー診療所』の場合、離島の医療や過疎化、超高齢化といった彩佳たちが直面している問題は、日本の縮図みたいなものです。志木那島で起こっていることは、日本人みんなが考えなければいけないこと。そういう課題に、ちょっとでも気づいてもらえるきっかけになれればいいなと思うんです」と説く。
自身は、芝居をすることで、実際の自分の人生ではないことでも追体験して肥やしにし、感情的にふくよかになったという。その余裕が、いまの思いを抱かせた。「だから、たくさんの人にそういう気持ちが芽生えたらいいなと思っています」と語る。数年前から社長業を営み、ショートムービーを監督した経験からディレクションにも興味を抱いているが、それらすべてがそのテーマに集約するのだという。
本作では、災害による被害や島の医療の限界が描かれる。コトーや彩佳、志木那島の人々が、これからも平穏に暮らしていけるように。日本のみならず、世界の人々が幸せでいられるように。柴咲は「社会的なテーマとリンクする作品に関わっていきたいです。エンターテイメントなら身近ですから、そういう気づきを広めていきやすいと思うんです。美しい世の中にしたいからこそやっていますし、それがいまのわたしがやりたいことです」と、大きな瞳を輝かせた。（取材・文：早川あゆみ）
ヘアメイク：川添カユミ（ilumini.） スタイリスト：柴田圭(tsujimanagement)
映画『Dr.コトー診療所』は12月16日より公開