MCUカーン俳優、ボディビルダー役で過酷な肉体改造 すでに来年度オスカー候補の声
今年のサンダンス映画祭で大きな話題になった作品のひとつが、ドラマのコンペ部門で特別審査員賞(クリエイティブ・ビジョン)を獲得したジョナサン・メジャース主演の『マガジン・ドリームズ(原題) / Magazine Dreams』だ。脚本・監督は、ティモシー・シャラメ主演の『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』を手掛けたイライジャ・バイナムが務めた。
『マガジン・ドリームズ(原題)』でメジャースが演じるのは、フィットネス誌の表紙を飾ることを夢見て、取り憑かれたように体を鍛えるアマチュアのボディビルダー、キリアン・マドックス。病弱なベトナム帰還兵の祖父と2人で暮らす彼は、スーパーで働きながら、裁判所の命令で時々セラピーを受けている。
人とうまくコミュニケーションをとれないぎこちなさや、ボディビルに依存するキリアンの姿は、ロバート・デ・ニーロが『タクシードライバー』で演じたトラヴィス・ビックルを彷彿させる。最初はまだ他人と心のつながりを持とうとしており、スーパーのレジ係ジェシー(ヘイリー・ベネット)をデートに誘うことに成功するが、熱に浮かされたようにボディビルにおける自己鍛錬の重要さを話すキリアンが怖くなったジェシーは、彼と食事をする前に去ってしまう。
また、大会に出かけようとして、かつて怒りを抑えきれずにトラブルを起こした相手から襲撃されることも。それでも大会に出場し、審査員の前で、血だらけになってさまざまなポーズを決めるキリアンの姿は恐ろしいほどだ。その後、キリアンを勇気づけるような出来事も起こるが、それは彼の絶望感をさらに深めるような結果を招くことになる。
後半に差し掛かると、キリアンを待ち受ける悲劇的な結末が予想され、ハラハラさせられる。エンディングには触れないが、有名になって、多くの人に見てもらいたいという夢を捨てきれず、ひどいトラウマを抱えながらも必死で生きようとするキリアンの姿に胸が締め付けられる。
3か月間にわたって、連日6,100以上のカロリーをとり、厳しいトレーニングを重ねて逞しい肉体を作り上げたというメジャースは、プレミア上映後のQ&Aで「筋肉の密度とキャラクターの密度は密接に関係しているんだ」と語った。「トレーニング中、床に座り込んで泣き崩れたりもした。肉体的に疲れたからじゃない。体重を増やし、(肉体的な)痛みの限界を乗り越えることには、精神がかかわってくるからだ。そして、それがキリアン・マドックスの感情的、精神的な支柱のように感じられた。こいつは本物だ。この男を見たことがある。僕はこの男だったんだ。怒りや喪失感、恐怖を隠さずに表現するということだ。彼を隠して演じることはできないんだよ」。
サンダンスでプレミア上映された『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019)で一躍注目されるようになったメジャース。間もなく公開されるマーベル映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』では、今後のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にとって重要な存在となる悪役カーンを演じ、マイケル・B・ジョーダンの初監督作となる『クリード3(原題)』では、アドニスの宿敵のボクサーにふんするなど、目覚ましい活躍ぶりだ。
そんなメジャースの鬼気迫る演技が絶賛されている本作は、すでに来年度のオスカー候補の声も出ているが、今後どのように評価されていくのか注目したい。(吉川優子 / Yuko Yoshikawa)