木村拓哉の提案で取り入れたセリフ 『レジェンド&バタフライ』大友監督をうならせたクライマックス
木村拓哉が織田信長役で主演を務める映画『レジェンド&バタフライ』(公開中)のメガホンをとった大友啓史監督が、本作で初めて組んだ木村の魅力を語った(※一部ネタバレあり)。
本作は、「コンフィデンスマンJP」シリーズや大河ドラマ「どうする家康」の古沢良太が脚本を務め、織田信長(木村)の生涯を、正室・濃姫(帰蝶/綾瀬はるか)との夫婦の絆にフォーカスして描く物語。大河ドラマ「龍馬伝」や映画『るろうに剣心』などで幕末を描いてきた大友啓史が監督を務めた。大友監督は、撮影現場での木村の印象について「現場に入るのが早い。そして集中力が凄い」と語る。「おそらくご自分が信長としてその場にどういう風に居ればいいのか、どういう風にセリフを言っていくのか、といったことを考えるためだと思います。ものすごい集中力で、誰も声を掛けられないような緊張感がありました」
~以下よりネタバレ含みます~
木村は入念に役にアプローチするだけに、彼が提案するアイデアに感嘆することが多々あったという大友監督。「思い付きではなく、考えに考えたすえに“こういうモノを持ちたい”とか“こういうことが必要だと思います”という話になってくるから、なるほどなと感じることも多い。ネタバレになるのであまり言えませんが、その最たるが『本能寺の変』で追い詰められた信長がとるある行動。その行動によって敵兵たちが一瞬怯むんですね。それは、生きることに執着する信長のクライマックスにつながっていきます」
そして、大友監督をうならせた木村のもう一つの提案が、前半に登場した濃姫のあるセリフを後半のシーンでも取り入れること。濃姫が信長に嫁いで間もない頃、二人が鷹狩に行くシーンがある。信長は鼻っ柱の強い濃姫に「どっちが大物をとれるか勝負じゃ」と挑み、濃姫は勢いよく「合点じゃ!」と答える。木村は、このセリフを、本能寺に向かう前に濃姫とある約束を交わす後半のシーンでも取り入れたいと提案した。同じセリフでも2つのシーンではかなりニュアンス、意味合いが異なり、それが二人の関係の変化を示すカギとなる。しかし、その大事な約束を交わすシーンを撮る前に本能寺のシーンを撮らなければならなくなり、木村は思わぬ行動に出た。
「木村さんが綾瀬さんに電話して『合点じゃ』と言ってもらい、それを録音して、本能寺の撮影直前に聞いているんです。信長の感情を作る上で、すごく合理的な判断ですよね。スタッフ間では、順撮りではなく、本能寺のシーンを先に撮らなくちゃいけないことにかなりストレスが溜まっていて、僕も含めて、あちこちから不平不満の声が聞こえたんだけど、木村さんが『それ俺が言いたいことなんだけどなあ……。言えなくなっちゃったじゃん(笑)』って(笑)。現場の状況を引き受けたうえで、彼はせめて自分にできることとして必要な準備をされた。結果、素晴らしい芝居、素晴らしいシーンになったのでね。現場では、座長自らのそういう自助努力にもずいぶん救われた気がします」
そのほか「特に木村の表情や際立つシーン」を問うと、よどみなく語り出す大友監督。「例えば信長が上洛したのちのこと。濃姫が公家風のお化粧をして、信長が『ぷっ』と吹き出す前の絶妙な表情。信長がふとのぞかせる男の優しさというか。ちょっと砕けていて『たまらないな、この表情』っていう。それと濃姫をおぶって、信長が安土城の天守閣に上ってきたとき。出会った当時の素直になれない二人のやりとりを三十年経っても繰り返しているというシーンで、濃姫に毒づかれながらも、再会の嬉しさを隠し切れないというそのニュアンスが絶妙ですね。そのあとの濃姫に薬を届けに廊下をタッタッタッタッと走る信長も、かわいらしいですよね。ところどころ、今までの信長では見られなかったチャーミングなシーンが作れたと思っています」
一方、鬼気迫るシーンとして、悪夢から醒めた信長と、市川染五郎演じる小姓・森蘭丸のやりとりを挙げる。「信長が弱さを見せるシーンですね。信長が悪夢から醒めたあと『返せ、返してくれ』と蘭丸と揉み合うシーンで、ポロリと涙を流す。たしか4テイク目ぐらいだったと思います。3テイク目も素晴らしかったけど、ここをピークとしてもっと感情を込めたらどうだろうっていう話をして。トライしてみたらポロっと涙がこぼれてあの芝居になった。どんどん孤独になっていく信長が、小姓である彼の前でだけふっと見せる弱さ。なかなか出てこない芝居かなと。すごく好きですね」
話は尽きることなく、大友監督は「信長が本能寺に発つ前の濃姫とのやりとりも、タッチライトとかは当てられていないんだけど、すばらしい感情表現をみせている。ストイックで、だけど仄(ほの)かに温かい痛切なシーンになっていて。大スクリーンで観ていただけると、木村さん、綾瀬さんの芝居の魅力をより堪能していただけると思います」と自信を見せた。(編集部・石井百合子)