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井口理(King Gnu)が俳優を始めたきっかけ 初主演映画は「普段の癖が出ている場面も」

井口理
井口理 - 写真:TOWA

 『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004※共同脚本)、『今度は愛妻家』(2009)など行定勲監督作品を多く手掛けてきた脚本家・伊藤ちひろの初監督作『ひとりぼっちじゃない』(3月10日公開)で映画初主演を飾った King Gnu井口理が、「映画主演は昔からの目標でしたから、まずはひとつ夢が叶いました」と語る本作の裏側や、俳優として活動を始めたきっかけなどについて話を聞いた。

【画像】井口理(King Gnu)撮りおろしカット<8枚>

 『ひとりぼっちじゃない』は、伊藤監督が自身の同名小説を自ら脚本を手掛け映画化した、恋愛と狂気が錯綜する不思議な物語。井口が演じたのは、人とうまくコミュニケーションがとれない歯科医のススメ。そんな彼がアロマ店を営む宮子(馬場ふみか)に恋をし、つかみどころのない彼女に翻弄されていく。

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俳優に憧れたきっかけ

 井口はこれまで、行定勲監督の映画『劇場』(2020)やドラマ「MIU404」(2020)や映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020)、『余命10年』(2022)などに出演。YouTubeドラマ「GOSSIP BOX/ゴシップボックス」(2021)でも主演を務めているが、俳優としての活動を始めたきっかけは育った環境によるところが大きいようだ。

 「僕、4人きょうだい(三男一女)の末っ子なんですけど、末っ子はどうしても後追いになるんでしょうね。うちはきょうだいがみんな合唱をやっていたり、市民劇団に入っていました。家族で映画を毎週4、5本、レンタルビデオ店から借りてきて、みんなで夕食の後観るのが習慣でした。だから、別に芸術一家ではないけれど、音楽や映画はすごく身近にあったんです。そのおかげか、お芝居をやりたいという気持ちがずっとあったのかもしれません。今回、主演でのオファーをいただいたときは本当に嬉しかったですね」

ミュージシャン・井口理とかけ離れたイメージ

映画『ひとりぼっちじゃない』より井口理演じる歯科医師・ススメ(C) 2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会

 『ひとりぼっちじゃない』では近年おなじみのスタイルである髭を剃り、撮影に臨んだ井口。人と目を合わせず内向的なススメの姿はステージで熱唱している普段の井口とはかけ離れているが、原作小説の解説では本人が「この病的に自分という人間を押し殺し、日記に書き溜めることしか出来ない姿にどこか親しみが湧いた。というより自分を完全に重ねてしまった」と書いている。井口にその意図について聞くと「オファーをいただいた後に原作を読んだので、どうしても自分と照らし合わせますよね」と語り、「原作に、“今日は隣に座ってきた女が隣の車両へと移動した。(中略)やけに人の視線が気になる。(中略)みんなに見られている気がして、笑われているような。”という描写があるんですけど、僕の人生も、こんなふうに自意識過剰なことだらけなんですよね(笑)」と主人公にシンパシーを感じたようだ。

 そんな彼が本作に出演することになったのは、本作の企画・プロデュースを務めた行定監督の『劇場』に劇団の主宰者役で参加したのがきっかけだった。「伊藤監督にはその年の行定組の忘年会で初めてお会いしたんですけど、実はひと言も話せなくて。しかも、その日は参加されていた関係者の方の誕生日で、『バースデイ・ソングを歌って欲しい』と言われたときに、ヘンな自意識が働いた僕は、緊張してなかなか歌えなかったんです。でも、その様子を伊藤監督が見ていて、“ススメは井口くんでいけるんじゃないかな”って思ってくれたみたいで。つまり今回のキャスティングは伊藤監督の直観力によるものだったんです」

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 とはいえ、井口が演じたススメの言動は少々変わっているし、彼が恋におちる宮子も浮世離れしている。なおかつ、原作では日記形式で書かれている自意識過剰なススメの内面を視覚化するのはかなりハードルの高い作業だった。「原作に書いてあるススメの考えを、言葉に頼らず、表情や立ち居振る舞いなどの微妙な変化として表現しなければならなかったのですが、それが弱すぎず、過剰になりすぎず、リアルな表現としてアウトプットするのがとても難しかった点です」

 伊藤監督は、小説ではススメの主観で表現された内面を、映像で客観的にとらえたらどう映るのか? ということに挑戦したのかもしれない。井口も「そこがスゴいですよね!」と大きく頷く。「小説で書かれたこともススメの主観だから真実とは限らないし、ススメ以外の登場人物も何を考えているのか分からない。映画で映し出すものも彼の妄想かもしれないから、観た人はつかみどころのない登場人物をずっと追いかけることになるかもしれません。それが『他人を理解することの難しさ』をひとつのテーマとする、この映画の醍醐味でもあります」

完成した作品を観て気づいたこと

写真:TOWA

 撮影現場に入るまでの約半年間、伊藤監督とは多くの会話を交わし、紹介された映画にも目を通していたため共通言語がすでに出来上がっていたのかもしれない。現場に入ると伊藤監督からはあまり具体的なディレクションはなく、「もう少し抽象的な言葉で『こういう感情を持って、このセリフを言って』という指示をされることが多かったです」と振り返る。

 そんななか、どのようにして役をつかんでいったのか。井口は「何も考えず、ただ無表情なまま受身のお芝居をしていたら、ススメという人間が多分もっとわかりづらい人間として映ったと思う」と強調する。「街灯の下でステップを踏んで踊ったり、ジュエリーショップで松葉杖をつきながら歩いて回るシーンでは、ススメの中で感情が渦巻いている。その感情の渦が大事だと思って。それによって歩き方も表情も変わりますから。それこそ、自意識にかられているときほど瞬きの回数が多く、本心をぶつけているときや感情が剥き出しになっているときは瞬きが極端に少ない。僕も完成した映画を観たときに気づいたんですけど、そこは普段の自分の癖が出ていたような気がして、面白かったですね」

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映画『ひとりぼっちじゃない』よりススメ(井口理)と宮子(馬場ふみか)(C) 2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会

 ススメの行動に自分を重ねたところもあるという。「ススメは木彫りで宮子の頭部を作るけど、僕も学生時代、交際していた女性に彼女の絵を描いて渡したことがあるんです(笑)。ススメは宮子の心の形をとらえたくて、木彫りの彼女を作っていたと思うんですけど、それと同時に、宮子を通して自分を形にしようとしていたような気がする。その気持ちはすごく分かりましたね」

 念願かなっての映画初主演を果たした井口だが、俳優とミュージシャンの違いをどのように捉えているのか。

 「歌はひとり部屋で口ずさんだだけでも少し満たされる。それは自分にとって根源的な喜びと言えます。対して、芝居は演じてすぐに楽しいという気持ちには今はまだなれていない。ほかの役者さんといいかけ合いができたときに楽しいって思うことはもちろんあります。でも、もっと個人として楽しめるようになりたい。今回の映画が終わった後、行定監督にも『芝居に対して、ああしたい、こうしたいという欲が出てきたら、井口はもっとよくなるよ』って言われたんですけど、そういう意味では、お芝居するときは自分をさらけ出すこと自体に喜びを感じられたら自分の表現がもっと変わっていくような気がしているんです」と、俳優としてのさらなる挑戦に意欲を見せた。(取材・文:イソガイマサト)

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