二度と演技ができないと思った…『グーニーズ』元子役、俳優復帰を決めた日
映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)や『グーニーズ』(1985)などに出演し、人気子役として一世を風靡した俳優キー・ホイ・クァン(51)。デビューから39年、最新作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされるなど、再び脚光を浴びている。現地時間12日のアカデミー賞授賞式を間近に控えたクァンがリモートインタビューに応じ、表舞台から姿を消していた期間や、俳優復帰を決めた日のことを語った。
スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスといった名だたる映画監督に才能を見出されたクァン。日本映画『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』(1987)にも出演するなど、順調に役者の道を歩んでいたが、当時のハリウッドではアジア系俳優がもらえる役が少なく、後にクァンも俳優業を休止する決断を下した。
「俳優業を諦めることは辛い決断でした。演じることは大好きなのに、その機会すら与えてもらえなかった。正直、二度と演技ができないと思いました。裏方として業界に戻ると、みんなが『いつ俳優復帰するんですか?』と私に質問してきました。演技がしたい気持ちを抑えこみ、『いいえ。俳優業が嫌いになりました』と本心とは真逆のことを伝えていました」
南カリフォルニア大学映画学部を卒業したクァンは、香港のアクション監督コリー・ユンと出会い、マーベル映画『X-メン』(2000)や、ジェット・リー主演の『ザ・ワン』(2001)に武術指導アシスタントとして参加。木村拓哉が出演した『2046』(2004)では助監督を務めた。長らく俳優の道から離れていたクァンだったが、主要キャストがアジア系俳優のハリウッド映画『クレイジー・リッチ!』(2018)の公開が、彼の人生を大きく変えた。
「『クレイジー・リッチ!』を映画館で観た時、時代は変わったと感じました。自分の中で、もう一度俳優をやりたいという気持ちが芽生えた瞬間です。俳優を辞めていた長い期間が長く、ハリウッドが私を求めているのか不安になったりもしましたが、後に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の話が飛び込んできた時は、子供の頃に戻ったように飛び跳ねました」
復帰は難しいかもしれないと何度も諦めそうになるも、「絶対にやるべきだ」という気持ちが強くなっていったクァン。俳優復帰を決断した日をこう振り返る。
「私は妻に『もう一度、俳優業に挑戦したい。どう思う?』と聞いてみると、彼女は『本当に? (ハリウッドの)拒絶と再び向き合う覚悟はあるの?』と答えました。その言葉を聞いて、まだ準備ができていないと怖くなりました。しかし、60代、70代になって過去を振り返った時、私は絶対に後悔したくなかった。後悔が恐怖を上回った瞬間、私は覚悟を決めて俳優業へと戻りました」
2021年のNetflix映画『オハナ』に出演したクァンは、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のオーディションを勝ち抜き、主人公・エヴリン(ミシェル・ヨー)の夫・ウェイモンド役を担当することとなった。「脚本がとにかく素晴らしかったです。長年ハリウッドで活動する中で、アジア系俳優が主役を務める脚本に出会いたかった。撮影も毎日が夢のようでした。最後に演技を披露してからかなり時間が経っていたこともあり、長い冒険を経験している感覚でした」
別次元に生きる自分のスキルにアクセスできるウェイモンドは、ウエストポーチを武器にしたカンフー技で迫り来る敵を一掃する。クァンいわく、武術指導アシスタントを務めた『X-メン』での経験が、同シーンの撮影で活きたという。「当時コリー・ユンが教えてくれた振り付けや美しい画の撮り方が、あのシーンの撮影で一気に蘇りました。とても心地よい気持ちでした」
本作は、第95回アカデミー賞で作品賞含む最多11ノミネートを獲得。前哨戦となる映画賞でも主要部門を総なめにしており、自身も悲願のオスカー初受賞が見えてきた。「この作品がこんなにも注目されて、評価されるとは誰も思っていませんでした。賞レースの期間は信じられないことばかりです」と心境を明かしたクァンは、日本のファンに向けて「心からのサポートに感謝しています。私の演技、作品そのものを楽しんでいただけたら嬉しいです」とメッセージを贈っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は3月3日全国公開