岸井ゆきの、初の最優秀主演女優賞に感極まる 映画への愛止まらず「ぜひ劇場で」
第46回日本アカデミー賞
第46回日本アカデミー賞の授賞式が10日、グランドプリンスホテル新高輪で行われ、女優の岸井ゆきの(31)が、映画『ケイコ 目を澄ませて』で初の最優秀主演女優賞に輝いた。
元プロボクサー・小笠原恵子さんの自伝「負けないで!」に着想を得て、生まれつきの聴覚障害に向き合いながらプロボクサーとなった主人公・ケイコの姿を、三宅唱監督が16mmフィルムで捉えた本作。岸井は、厳しい食事制限とトレーニングで体作りに励み、基礎からボクシング練習を重ね、東京都聴覚障害者連盟から手話を学んで撮影に挑んだ。
ブロンズを手にした岸井は、感激に震えた様子で「身に余る賞をありがとうございます。本当に、三宅組の誰一人が欠けてもここに立てなかったので、とても感謝していますし、支えてくださった関係者の皆さま、そして原案となった小笠原恵子さんにも感謝します。ありがとうございます」とコメント。
さらに「私は、映画が大好きなんです」と言葉を続けると「映画を観ている時は、何語でもしゃべれるし、どこへでも行けるし、(自分が)何者でもないと思えるからすごく好きで。他者を演じることで、自分を見ることができるというか。現場から家に帰って、自分の生活を見つめて『あぁ、やっぱり私って何でもないんだ』って思えることに安心して。そうして自分を見ているような気がして……」と映画への愛を語り続ける。
さらに「30年も40年も前の映画を初めて観た時に、『あぁ、これを観るために今までがあったんだな』って思うことがあって、映画はずっとそこで、見つけてもらうのを待ってくれている。そういうふうに、まだ出会う前の、誰かのために生きることはできるのかなって思ったりして」と思いがあふれた様子の岸井は「ちょっともう、わかんなくなってきたんですけど」とはにかみながら、最後は「本当にこの作品には、私が見たことのない景色を、たくさん見せてもらいました。劇場でまだやっているんです。上映中なんです。ぜひ劇場で観ていただきたいなって思います。今はもう、それだけが私の望みです」と呼びかけ、会場から盛大な拍手を受けていた。
ウソがつけず愛想笑いが苦手なケイコを、さまざまな感情の間で揺れ動く、等身大の女性として表現した岸井の演技は各所で絶賛され、第96回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、第77回毎日映画コンクール女優主演賞、第36回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞している。
岸井は過去、『愛がなんだ』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞している。なお、本年度の優秀主演女優賞部門では、岸井のほか、『さかなのこ』ののん、『PLAN 75』の倍賞千恵子、『流浪の月』の広瀬すず、『ハケンアニメ!』の吉岡里帆が優秀賞を受賞している。(編集部・入倉功一)