『この世界の片隅に』片渕須直監督、新作に言及「いつにも増して本格的」
映画『この世界の片隅に』(2016)の片渕須直監督が19日、現在制作中の「枕草子」の時代を舞台にした新作(タイトル未定)の公開が、2025年頃になることを明かした。片渕監督は現在、22日まで開催中の第1回新潟国際アニメーション映画祭に参加中で、新作を語るトークイベントの中で言及したもの。
『この世界の片隅に』で約80年前の庶民の暮らしを細やかに再現した片渕監督。今度は約1,000年前の京の人たちの日常を、清少納言執筆の随筆「枕草子」を紐解きながらアニメでよみがえらせる。監督補を『鉄コン筋クリート』(2006)の浦谷千恵、作画監督を『もののけ姫』(1997)の安藤雅司、美術監督を「ユーリ!!! on ICE」(2016)の水谷利春が務める。
片渕監督は山口県防府市が舞台の『マイマイ新子と千年の魔法』(2009)で、原作に書かれていた“ここに1,000年前に都があった”という記述を深掘りし、子供の頃に住んでいたらしいという清少納言を物語に登場させている。以来、その子がどのような人生を歩んだのかを調べずにはいられなくなり、企画として寝かせていたという。
片渕監督は「『この世界』が終わってどうしよう? と思った時に、スタッフに映画にしたいと告げたら『いいっすよ。監督がやりたいならやってください』と言ってくれた」といい、2017年から準備を始めたという。
片渕監督の調査の鬼ぶりはこれまでの作品で実証済みだが、本作でもしかり。十二単の印象が強い平安時代の人たちが、夏にどのような着物を着ていたのか? を調べあげ、実際に生地を再現。さらに天然痘や麻疹、マラリアといった疫病が流行し、京の人口が半分になったという記述まであるという。そうした資料を読み漁っていた矢先に、新型コロナウィルスが世界中を襲った。片渕監督は「疫病に、それに伴う政治的混乱の中、彼女たちはどのように生きていたか」と語り、平安時代を通して現代を見つめ直すような物語になることを示唆した。
片渕監督の新作については、自身のTwitterやスタッフ募集も兼ねた紹介映像の第3弾までが、制作会社コントレールの公式Youtubeで公開されている。実はタイトルも決まっているようだが、公式発表を5月に予定しているという。しかし、今回は『この世界の片隅に』のプロデューサーでもあり、新作にも携わる真木太郎が本映画祭のジェネラルプロデューサーを務めていることから新作についてのトークを依頼されたという。だが話は尽きず、片渕監督の一人語りは90分に及んだ。
片渕監督は「『この世界』の後、片渕は何をやっているんだと言われそうなので、今日話しをしました。来年の新潟国際アニメーション映画祭にも来ることになりそうですが、新作の全部は出来ていませんから。僕自身、動いている清少納言をまだ1カットも見ていません。いつにも増して本格的な感じで、いままでとは違うものが出来上がりそうな気がします。完成まで我慢していただきたい」と語り、会場に詰めかけた限定100人の観客の期待値を高めつつ会場を後にした。(取材・文:中山治美)
新潟国際アニメーション映画祭は新潟市民プラザなどで22日まで開催中