横浜流星、今はひたすら走る!飛躍を遂げ、楽しみが増した現在
役者業にストイックな情熱を注ぎ込み、次々と新たな一面を披露している横浜流星。6度目のタッグとなる藤井道人監督のもと、主演を務めた映画『ヴィレッジ』では“闇堕ち”した青年の変化を演じきり、さらなる新境地をひらいている。横浜と藤井監督は、お互いに仕事に恵まれないころからの“戦友”で、切磋琢磨し合いながら高みを目指してきた二人だ。7年前の出会いから本作に至る道のりを振り返った横浜が、本作で味わった喜びや今噛み締めている役者としての武器、30代の展望までを語った。
【写真】横浜流星、実は地味顔を自認!?『ヴィレッジ』撮り下ろしカット<12枚>
脚本の初期段階から相談を重ねた
本作は、映画『新聞記者』『余命10年』などの藤井監督がオリジナル脚本を手掛けたサスペンス・エンターテインメント。父親が村で起こした事件の汚名を背負い、村人たちから冷たい目を向けられながらゴミ処理施設で働いている青年・優(横浜)が、幼なじみの美咲(黒木華)が東京から戻ったことをきっかけに、負のスパイラルから抜け出していこうとする姿を描く。
藤井監督からの希望で、脚本づくりから京都でのロケハンにも同行したという横浜。「藤井監督は、脚本の執筆中から何度も僕に感想を求めて意見を反映してくれた」そうで、「監督は試行錯誤をしながら脚本に取り組んでいて、毎回、全然違う脚本が届くんです。僕が“原始人”という役の設定の時もあったし、すべてが夢の話だったという物語の時も……いろいろな内容の脚本がありました」とニッコリ。「その都度、監督には(脚本に対して)思ったことを率直に話してきましたが、僕は監督がやりたいこと、作りたいものを信じるだけ」と藤井監督への信頼感を口にする。
何度も話し合いを重ねた結果、優の人生を軸に、村に潜む同調圧力や、経済格差など社会の歪みまでを浮き彫りにする、奥深い人間ドラマが誕生した。藤井監督は「横浜流星と藤井道人の分身」という形で優というキャラクターを生み出したそうで、横浜自身、優との重なり合いを感じることがたくさんあったと話す。
借金まみれの母と暮らし、仕事中は村長の息子にいたぶられながら、小さな村で暮らしている優。横浜は「優は感情を出したくても出せないし、今の状況から逃げたくても逃げられない。それが日常になってしまっているので、ゾンビのように生きていくしかないというか、人生を半ば諦めたような状態で生きている」と分析し、「藤井監督とは『優と同じような状況になったら、僕たちもこうなるよね』と話していました。会社や学校など組織に属している人ならば、上の立場が絶対で『そこから逃げられない』と感じている人もたくさんいると思います。きっと、優のいる状況と置き換えられるものがあるはず」と共感を寄せる。
地味顔を自認!? 「街中を歩いていても誰にも…」
過酷な運命を背負いどん底を味わう優は、演じるには覚悟を要するような役柄に感じる。「覚悟して挑もうと思っていました」と述懐した横浜だが、「藤井監督から『優という役に入り込みすぎると、話し合いができなくなる。感情で攻めすぎてもよくない』というお話があって。今回の現場では、『入り込みすぎるな』と自分に言い聞かせるようにして、戦っていました」と藤井監督から助言があったという。「優として生きるとしたら、気持ちが落ちていくことは目に見えていますよね」と苦笑いを見せながら、「自分も器用なほうではないので、これまではしっかりと役柄に入り込んでやっていく方法しか知りませんでした。今回は役に入り込むだけではなく、周囲とコミュニケーションを取れる余白を残しておくという方法を教えてもらったような気がしています」と新たな学びもあった様子だ。
虚な目で無精髭を生やした優を映し出した予告編やポスター画像が公開されると、その“闇堕ち”した姿が話題をさらった。自分の居場所が見つけられず人生を諦めたような姿、美咲と関わる中で希望を見出していく過程、そして訪れる壮絶なクライマックス──。優の身に起きる変化は、そのままキャラクターのビジュアルにも表れている。
横浜は「まず優には、どんな髪型がいいかなと考えて。僕はぺたんこのストレートヘアなんですが、ある日、藤井監督のパーマがボサボサになっていて(笑)。『それいいな。その髪型にしていい?』というところから始まった」と藤井監督の髪型を真似たのだとか。「映画の冒頭の優は、頭もボサボサで髭を生やしていますが、美咲と再会したことで『髭を剃ったほうがいい』と言われるだろうと考えて、そこからは髭を剃ったり、前髪もスッキリさせて。次第に自信を身につけていくことで、胸を張って歩くようにもなる」とビジュアルにもこだわりながら、優の辿る道のりを体現した。
舞台『巌流島』では宮本武蔵として、気迫あふれる姿を披露した横浜。一方CMではうっとりするような美しい表情を見せるなど、作品やシチュエーションごとにガラッと変貌できるのも、横浜の大きな魅力だろう。横浜は「『役によって顔が変わる』と言っていただくこともあって、それは自分の武器の一つだと思っています」と切り出し、「まつ毛は長くて特徴的かもしれませんが、そのほかにはあまり特徴もないし、本当に地味な顔だなと思っていて。街中を歩いていても、誰にも気づかれません」と笑顔。「だからこそ、髪型だけでもイメージを変えられる。いろいろな役を演じる上でも武器になるはず」と思いをめぐらせる。
今はひたすら走る時期
横浜と藤井監督との出会いから、7年の月日が経った。横浜は「藤井監督は、『また会った時に成長した姿を見せたい』と思わせてくれる人」と打ち明けるなど、かげかえのない存在だという。「『青の帰り道』でご一緒したころは、二人で『仕事ないね』と話していました。今回は二人共、以前より力をつけたタイミングで、初めて藤井監督の長編で主演をやらせていただけた。ものすごく感慨深いです。『ほかの現場で得たものをぶつけて、藤井監督を驚かせたい』という気持ちもありました」と告白する。
7年の間に役者として大きく飛躍した横浜だが、モットーは「常に、目の前にあることを一生懸命やるだけ」とキッパリ。恋人に執着して暴力を振るってしまうダメ男を演じた『流浪の月』をきっかけに「それまでとは、オファーをいただく作品も変わってきたなと感じている」そうで、「演じる役や作品の幅が広がっていくことは、ものすごくありがたいこと。7年前は不安もありましたが『あらゆる役に挑戦していきたい』と役者業に対して楽しみがどんどん増えてきています。20代のうちは休むことなく、次から次へと作品を重ね、いろいろな方と出会って、吸収していきたい。今はひたすら走る時期で、その積み重ねたものを30代からじっくりと深めていけたらいいなと思っています」と未来を見つめる。
本作は、『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』など意欲作を世に送り出し、2022年6月に亡くなったスターサンズの河村光庸プロデューサーが手がけた最後の作品の一つとなった。横浜は「河村さんの作品は挑戦的で攻めているものばかり。それだけではなくて、きちんと伝えたいメッセージが強く込められています。僕自身『新聞記者』(Netflix)から河村さんの手がける作品に携わることができて、ものすごく幸せです。いつもチャレンジしている河村さんとの出会いによって、もっと自由にものづくりをしていいんだと思うことができました。今回は藤井監督とタッグを組んで、そういった作品に挑戦できた。最高の経験になりました」と語っていた。(取材・文:成田おり枝)
映画『ヴィレッジ』は4月21日より公開