絶賛vs酷評!マリオ映画、観客と批評家で賛否真っ二つの背景
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が、全世界ですごいことになっている。今月28日の日本公開を待たずして、世界興行収入はすでに5億ドル(約650億円・1ドル130円計算)を突破。あらゆる新記録を打ち立てている一方で、批評家の評は必ずしも優しくない。批評家と観客の意見の食い違いはハリウッドで頻繁に起きてきたことだが、とりわけ今回は「批評家はわかっていない」という不満の声が聞かれる。(文:猿渡由紀)
【動画】カラフルで楽しい!『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』予告編
北米レベルでも、全世界レベルでも、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のオープニング成績は今年最大。ビデオゲームの映画化作品としても、今作を製作するイルミネーションの作品としても、史上最高のデビューを飾った。だが、良いのは数字だけではない。何より大事なことに、公開初週末に劇場にやって来た観客が、映画にとても満足しているのだ。観客の感想調査を行うシネマスコア社によれば、観客の評価は「A」。「A」を取る映画は、決して多くない。
アメリカの大手映画批評サイト「ロッテントマト」でも、96%の観客が褒めている。このサイトに寄せられた観客の感想は、「思っていたよりずっと良かった」「とてもチャーミングでゲームに忠実」「純粋に楽しい」など、非常にポジティブ。多くの人が5つ星満点中、5つ星をあげている。
だが、その同じ「ロッテントマト」で批評家がどう思ったのかを見てみると、好意的なのはわずか58%なのだ。しかも、かなり辛辣な評もある。
The Boston Globe は「これは映画ではない。ファンが期待するものをチェックして入れただけ」とぴしゃり。New York Post も「キノコ王国やジャングル王国など、きっちりディテールを入れて描いてはいるが、魂はない。彼らがやりたいのはもっと物を売ることだけ。これはクリエイティブに見せかけた欲だ」と厳しい。RogerEbert.comがつけた得点は、4点満点の1.5。「予告編レベルの薄っぺらさ。クリエイティブであること、野心的であることを完全に避けている」というのが理由だ。
とは言え、業界人がみんなこの映画を気に入らなかったわけではない。ロサンゼルスに住む筆者が参加したマスコミ試写に来ていた人たちからも、「かわいい映画。ゲームに出てくるものがたくさん出てきたし、楽しかった」「絶対息子に見せる。きっと喜ぶはず」という声が聞かれた。
堂々と批評家に反論する記者もいる。たとえば Inside the Magic は、「『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、子供を楽しませ、大人にノスタルジアを感じさせる、パーフェクトなバランスを達成した。観た人の多くは、イースターエッグを見つけた喜び、素晴らしい世界観、そしていかに楽しい映画だったかについて語っている」と絶賛。批評家による「話が薄い」という批判についても、「マリオのゲームはもともとすごいストーリーや感動があるものではない。カラフルで楽しいものだ。この映画はそこを見事にやってみせた」と一蹴した。
Forbesも、この映画はそもそもゲームのファンのために作られているのだと指摘。任天堂のゲームをして育ったというこの記者は、「これらの批評家には(マリオならではの)マジックがわからなかったようだ。彼らの多くはマリオをあまりプレイしてこなかったのだろう。それはとても残念。この映画は史上最高のゲームを最も忠実に、最も正しい形で映画化した素晴らしい作品なのに」と書いている。
観客と批評家の意見が完全に分かれることは、これまでにも良くあった。ブロックバスター映画、イベント映画では、とりわけその傾向が強い。近年のヒット映画について「ロッテントマト」の数字を見てみると、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、「良かった」とする批評家が29%なのに対し、観客は77%。『アンチャーテッド』は批評家が41%、観客が90%。Netflixの『グレイマン』は批評家が46%、観客が90%だ。
ギャップはアートハウス映画でも見られ、批評家から高い評価を受けたアートハウス映画が興行成績では全然ダメだったということは、頻繁に起きる。批評家のおかげで賞レースに食い込んだという作品は毎年いくつも出てくるものの、一般の観客は必ずしも批評家が何を言うかを気にしていないというのが現実なのである。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は多くの観客が大満足しただけに、それをあらためて実感させられた形。これを機に批評家嫌いになる人が増えたりすることがなければいいのだが。