今年のパルムドールはどう選ばれる?日本からは是枝監督作『怪物』と役所広司主演作が出品
第76回カンヌ国際映画祭
現地時間16日、第76回カンヌ国際映画祭で審査員会見が行われ、今年の審査員長を務める映画『逆転のトライアングル』のスウェーデン人監督リューベン・オストルンド(49)がどのように最高賞パルムドールを選ぶつもりかを語った。
彼が率いる審査員団は8名。『TITANE/チタン』『RAW 少女のめざめ』のフランス人監督ジュリア・デュクルノー、『人生スイッチ』のアルゼンチン人監督ダミアン・ジフロン、『フェイブルマンズ』『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のアメリカ人俳優ポール・ダノ、『キャプテン・マーベル』『ルーム』のアメリカ人女優ブリー・ラーソン、『悪なき殺人』のフランス人俳優ドゥニ・メノーシェ、『青いカフタンの仕立て屋』のモロッコ人監督マリヤム・トゥザニ、ザンビア人監督のルンガーノ・ニョニ、脚本家・監督のアティーク・ラヒーミー(アフガニスタン、フランス)という多種多様な面々だ。
社会風刺のブラックコメディーを得意とし、若くして2度のパルムドール受賞者(『逆転のトライアングル』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)となってカンヌに新しい風を吹かせたオストルンド監督は、自身を審査員長に選んだカンヌ側の狙いは重々承知しているよう。「全員一致で決めることは、大胆さや斬新さを殺すことにつながるのでは?」という記者からの意見に完全同意し、「一つの強い声があり、他の人がそれに従う、というのはやめたい」と切り出した。
「審査員全員が自分のターンを持ち、考えを述べてほしいと思っている。ここでは誰もが自分の声を持てる。自由でオープンで、何でも思ったことを表明してほしい。なぜなら僕たちは直感に従うべきだから。バカげたことを言うのを恐れないでほしい。“ただ同じ意見になる”なんていうのは退屈すぎる。僕たちは皆、違うバックグランドがあって、だからこそここにいるわけだ。それぞれが違うものを議題に上げ、議論を戦わせるために」
「“どのように世界を見ているか”で意見を戦わせるべきだと思う。それこそが映画。『これは自分の世界の見方、人間の見方と違う』と思ったら、その映画に反対すべき。『この映画は真実を語っている』と思ったら、その映画を認めさせるために戦うべき。活発な議論が、温かな雰囲気で行われるようにしたい。全員が参加しなくてはならない。他の人に議論させて、自分はゆったりくつろいでいるなんていうのは、僕は許さない」と朗らかでありながらも熱く語った。
オストルンド監督は「“常に賢いことを言わなくてもいい”という雰囲気を作りたい。なぜなら、理屈でなく感じたことを口にすることを恐れるべきではないから。もし、審査員が互いに賢さを競うように発言するようになってしまったら、大切なものが見落とされることになる。ただ最初の直感を言葉にして、たくさん議論をしたい」ともコメント。今年の審査では審査員たちの直感と、それぞれの映画がこの世界をどう反映しているかが鍵となるようだ。審査の進捗については完全に口をつぐむため、今年は何が賞を取りそうか、宣伝担当者も記者も絶対にわからない初めての年になるとも宣言していた。
ケン・ローチ監督、ウェス・アンダーソン監督、トッド・ヘインズ監督ら常連の新作など全21作が選出された今年のコンペティション部門。日本からは、『万引き家族』に続く2度目のパルムドール受賞が期待される是枝裕和監督の『怪物』と、ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司とタッグを組んで東京で撮り上げた『パーフェクト・デイズ(原題) / Perfect Days』の2作が選ばれている。
『怪物』はカンヌ常連の是枝監督と、脚本家・坂元裕二、音楽・坂本龍一さんが組んだドラマ。学校でのトラブルを抱える子供に心を痛めるシングルマザー、事なかれ主義の教師陣、そして無邪気な子供たちと、登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに待ち受ける結末を描く。出演は安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太など。『パーフェクト・デイズ(原題)』は渋谷の公共トイレ清掃員(役所)の小さな喜びに満ちた日々を描き出したドラマで、柄本時生、石川さゆり、三浦友和らが脇を固めている。
受賞結果は映画祭最終日の現地時間27日に発表される。(編集部・市川遥)