是枝裕和『怪物』日本映画初、カンヌで「クィア・パルム賞」受賞
第76回カンヌ国際映画祭
是枝裕和監督の新作映画『怪物』(6月2日公開)が、第63回カンヌ国際映画祭の独立賞の一つで、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる「クィア・パルム賞」を、日本映画で初めて受賞した。日本時間28日深夜に発表される、主要部門の発表に先駆けて賞を獲得した是枝監督は、「映画がすべてを語っていると思うので、監督がここでなにかをいうのは、おまけのような、いらない蛇足なのですが本当に、この映画を愛していただいて感謝いたします。ありがとうございました」とコメントしている。
今年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選出されている『怪物』は、学校でトラブルを抱えているらしい息子に心を痛めるシングルマザー、事なかれ主義の教師陣、そして無邪気な子供たちと、それぞれの視点による「怪物」探しの果てを描く人間ドラマ。現地時間17日に公式上映が行われると、上映後には5分以上にわたって熱いスタンディングオベーションが贈られた。
2010年に創設された「クィア・パルム賞」は、公式部門とは別に独立した審査員が組織され、映画監督や俳優、ジャーナリストや大学教授、各国のクィア映画祭のプロデューサーなど、毎年5~8人が審査員となる。コンペティション部門、国際批評家週間、監督週間、ある視点部門に出品されたすべての作品が対象で、過去には『燃ゆる女の肖像』(2019)、『Girl/ガール』(2018)など日本でも話題となった作品が受賞している。
審査員長のジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、「私たち審査員は、10日間で12本の映画を観ました。1本を選ぶのは大変な作業でしたが、ある作品が満場一致で選ばれました」とコメント。「その物語の中心にいるのは、他の子供たちと同じように振る舞うことができず、またそうしようともしない、とても繊細で、驚くほど強い2人の少年です。世間の期待に適合できない2人の少年が織りなす、この美しく構成された物語は、クィアの人々、馴染むことができない人々、あるいは世界に拒まれている全ての人々に力強い慰めを与え、そしてこの映画は命を救うことになるでしょう。登場人物のあらゆる面を、繊細な詩、深い思いやり、そして見事な技術で表現した是枝裕和監督の『怪物』に、私たち審査員は満場一致でクィア・パルム賞を授与します」と受賞理由を明かした。
是枝監督は、「まずこの作品を満場一致で選んで頂いたジョン・キャメロン・ミッチェルさん、審査員の皆さまありがとうございます。そしてこの喜びをここで分かち合って頂いている皆様にもお礼申し上げます。ありがとうございます」と感謝すると、「(ジョン・キャメロン・ミッチェルさんが)お話してくださった映画の紹介の中に、この映画を通して僕が描きたかったことが全て語られていて、ここで僕が何か言葉を重ねることは何も必要ないような気がしています」と続ける。
「僕がこの映画のプロットを手にしたのは4年半ほど前なのですけども、その瞬間からこの主人公2人の少年が抱えている葛藤とどういう風に、それを演じる少年と同じように作り手であるプロデューサー、監督、脚本家がその葛藤と向き合うべきなのか、どうしたら向き合えるのかをとてもとても時間をかけてやってきました」と製作期間を振り返った是枝監督は、「映画がすべてを語っていると思うので、監督がここでなにかをいうのは、おまけのような、いらない蛇足なのですが本当に、この映画を愛していただいて感謝いたします。ありがとうございました」と締めくくった。(編集部・倉本拓弥)