是枝監督『怪物』、坂本龍一さんの音楽が“心に響く”と話題
第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した是枝裕和監督最新作『怪物』(公開中)で、坂本龍一さんの音楽が「頭から離れない」「坂本龍一さんの曲がとてつもない仕上がりです」と話題だ。
本作は、『誰も知らない』『万引き家族』などで名子役を見いだしてきた是枝監督が、映画『花束みたいな恋をした』やドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」などの人気脚本家・坂元裕二、そして坂本さんと組んだ注目作。湖のある郊外の町を舞台に、どこにでもあるような子供同士の喧嘩が、互いの主張の食い違いから、メディアまで巻き込む大騒動になっていくことで浮き彫りになる人間模様を描く。
今年3月に亡くなった坂本さんは、映画『戦場のメリークリスマス』(1983)で英国アカデミー賞作曲賞を、そして『ラストエンペラー』(1987)で日本人初となる米アカデミー賞作曲賞を受賞するなど、映画音楽の世界でもその名を知られる存在。是枝監督も「念願のコラボレーションが実現した」と明かしていた。オファーの際には、手紙とともに、坂本さんの楽曲を仮当てして編集した映像を送ると、坂本さんから残念ながらスコア全体を引き受ける体力はないが、思い浮かんだ曲が1,2曲あるという返事があり、最終的に書き下ろしの2曲と、最新アルバム『12』からの楽曲、そして予告編でも使用されている「Aqua」などの過去の楽曲により音楽が構成された。
是枝監督は、先月行われた完成披露試写会でも坂本さんとの制作秘話を明かしており「出来上がった作品を観ると、坂本さんの楽曲はこの映画に必要だったと、誰よりも自分が強く感じています。『12』の曲も、映画を観てから作ってくださったのかなと思うぐらい、作品のなかから聴こえてくる曲として存在しているんです。不思議ですよね。本当に感謝しています」と語っている。
坂本さんは、本作への参加にあたり「怪物と言われると誰が怪物なんだと探し回ってしまうんだが、それはうまくいかない。誰が怪物かというのはとても難しい問いで、その難しい問いをこの映画は投げかけている。さて、その難解なテーマの映画にどんな音楽をつければいいのだろう。救いは子供たちの生の気持ち。それに導かれて指がピアノの上を動いた。正解はない。」とコメント。その生み出された旋律は、是枝作品ならではの、自然体の子供たちが眩しく輝く美しい映像を、さらに鮮明に脳裏に焼き付ける極上の音楽として、物語そして映像との強烈な相性の良さを見せており、「劇中曲が見事に効果的」「坂本龍一の音楽の正しい使い方」「坂本龍一のピアノの旋律が哀しみを和らげ、怒りを解し、希望を照らし、こちらの心に寄り添ってくれる」「いつ聴いても素晴らしい曲で泣けてくるメロディ」「子役2人と坂本龍一音楽に惹き込まれる」など、鑑賞後の観客の心をとらえて離さないようだ。(高橋理久)