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『怪物』秘密基地は「銀河鉄道の夜」をイメージ!是枝監督の想像を超えた名シーン秘話

依里(柊木陽太)と湊(黒川想矢)
依里(柊木陽太)と湊(黒川想矢) - (C) 2023「怪物」製作委員会

 第76回カンヌ国際映画祭で坂元裕二が脚本賞を受賞し、独立部門「クィア・パルム賞」と合わせて二冠を達成した是枝裕和監督の新作『怪物』(公開中)。物語の核となる二人の子供にとって重要な場所となるのが、廃線跡。宮沢賢治の小説「銀河鉄道の夜」をイメージしたという本シーンの裏側を、是枝監督が語った。

【画像】秘密基地の内部

 物語の舞台は、大きな湖のある郊外の町。小学5年生の湊(黒川想矢)が、母親(安藤サクラ)に担任教師の保利(永山瑛太)から暴力を受けたと告白。事件の顛末が複数の視点で描かれ、切ない真実が浮かび上がっていく。柳楽優弥に史上最年少となるカンヌ国際映画祭男優賞をもたらした『誰も知らない』をはじめ、『奇跡』『万引き家族』など数々の映画で名子役を見いだしてきた是枝監督が、本作でもまた黒川想矢と柊木陽太という二人の新星を輝かせた。

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ゼロから作られた二人の秘密基地となる廃車の車両

 長野県諏訪市で撮影された本作の重要なシーンの一つが、湊(黒川)と同級生の依里(柊木)がトンネルを潜り抜けた先にたどり着く廃線跡。二人だけの秘密基地となる廃車の車両は本物と思いきや、「まるごと作った」という。

 「廃車は長野でゼロから美術スタッフと現地の建設会社の方達で作ってもらいました。水路のあるトンネルを見つけてくれたのは、僕が一番今頼りにしている後藤一郎君という制作部のスタッフなんですけど、『万引き家族』で見えない花火が上がる家を見つけてきてくれたのも彼です。あの場所は脚本の坂元さんにも見てもらって決定稿を書いています。本当にあの場所が力強く、作品には大きかったですね」

 本シーンの脚本を読んだ際にイメージしたのが「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカムパネルラだったと是枝監督。貧しく内気な少年ジョバンニが、親友のカムパネルラと銀河鉄道に乗って美しくも哀しい旅を繰り広げるストーリーだ。「あの空間は湊と依里が唯一互いの感情を出せる場所。黒川君、柊木君の出演が決まった時、二人に“宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読んでね”と話しました。特に黒川君は僕から指示した訳ではないのに、自分で青色の電車の模型みたいなものを作っていたりもしたので、役をイメージするにあたって結構大きかったのかなと」

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車両の中でゲームをする依里

 車内には、湊と依里にとってこの場所がいかに大切なのかを伝えるかのように、イマジネーションあふれる飾り付けがなされているが、黒川、柊木自ら飾り付けを行ったこともシーンをつくりあげるのに役立ったようだ。「美術スタッフの手も借りていますが、黒川君、柊木君がものすごい時間をかけて作りました。土星は作れないから美術部が作ったけど、窓ガラスに貼っている恐竜のモチーフなんかは黒川君が自分で絵を描いて作っています。美術を一緒に手伝うと空間に対する思い入れが変わってくるんですよ。自分たちで作る、選ぶ、手を加えるなどで関わることで全然違ってくる。だから廃車だけではなく、学校の教室に飾られている絵や習字も本人たちのものです」

 湊と依里のシーンで特にテイクを重ねたのが、この廃車の上での会話。ネタバレになるため詳細は伏せるが、黒川と柊木がカットを重ねるごとに異なる芝居をしてくるために是枝監督も楽しんで撮影したという。

 「全部で13テイクぐらいかな。二人がどこで近づいてどこで離れるかというのが、やる度に変わるので面白くていろいろ試してみたんです。そうするうちに陽の光も変わってくる。ワンテイクで引きの画1発だなって思っていたので、前後のつながりも考えると、いろいろな光で撮った方がいいかなと。立ったまましゃべる、座ったままとかいろんなパターンを撮りました」

 黒川と柊木は本作がスクリーンデビュー作となるが、「どのシーンも想像を超えてきた」と感心しきりの是枝監督。とりわけ、校内で湊と依里が絵具まみれになって取っ組み合いをするシーンについては「湊が依里を押さえ込みながら何となく悲しい顔をするんですけど、本当につらそうなんですよね。あの表情は、僕から細かく指示したわけではなく黒川君から出てきたもので、ちょっとドキッとしましたけどね。素晴らしかったと思います」と予想を遥かに上回った名演を称えていた。(編集部・石井百合子)

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