「VIVANT」なぜハマる?考察、サプライズ、満足度…ヒットの理由を分析
堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司という豪華キャストが顔を揃えたTBS日曜劇場「VIVANT」(毎週日曜よる9時~)が絶好調だ。3日に放送された第8話の平均世帯視聴率は14.9%、個人視聴率は10.1%を記録し(数字はビデオリサーチ社調べ、関東地区)、今シーズンの他のドラマを圧倒している。視聴者の満足度も高い本作の魅力を考えてみたい。(文:大山くまお)※本文にはストーリーに触れる部分があります
【画像】テントの実態が次々と明らかに…「VIVANT」第9話場面写真
視聴者を引っ張るサプライズ
当初、「VIVANT」で話題になっていたのは、主演級をずらりと揃えた豪華なキャスティングと破格の制作費、そして大掛かりなロケーションによる壮大な映像だった。だが、それだけで喜んでくれるほど今の視聴者は甘くはない。その上、夏ドラマが放送される期間は外出する機会が多く、視聴者の集中力が保たない時期だと言われている。
それを打ち破ったのが「VIVANT」が仕掛ける数々のサプライズだ。まずは第1話のラストに二宮和也が登場するというサプライズで視聴者を大いに沸かせた。本筋に大きく絡む重要な役柄だったのも驚きだ。キャストに名前を連ねていた松坂がなかなか登場しなかったのも一種のサプライズだろう。
事前にストーリーと役柄を明かさなかったのも、サプライズ重視という制作側の姿勢の表れである。豪華なキャスティングと宣伝され、破格の制作費がかけられていることもわかっているので、どんな仕掛けがあってもおかしくないし、期待もできる。ラストにかけても視聴者を釘付けにするサプライズが用意されているはずだ。
謎が散りばめられたスリリングなストーリー
乃木憂助(堺)は、表向きは気弱そうな商社マンだが、実は国防を担う影の諜報組織・別班の一員である。しかも、Fという名の別人格も存在する。憂助は公安の野崎(阿部)、別班の後輩・黒須(松坂)らと手を組みつつ、国際的テロ組織・テントを率いるノゴーン・ベキ(役所)を追う。そして、ベキは憂助の父親だったーー。
あらすじからも伺えるように、「VIVANT」は画面とセリフから伝えられる情報量がとてつもなく多い。その上、全編に渡って謎と伏線が散りばめられているので、「考察ドラマ」としても非常に高い人気を誇る。何気ないシーンやセリフに見えても、後から意味がわかる場合が多く、視聴者だけでなくメディアもこぞって考察を繰り広げている。
代表的なものが「黄色」と「裏切り」を関連づけた考察だ。新約聖書の「最後の晩餐」では裏切り者のユダが黄色い服を着ているが、本作でも裏切り者は黄色いものを身につけていた。視聴者が考察を楽しめるのは、細部まで考え抜かれた脚本と演出があってこそ。ラストに向けて、さらに考察は加熱していくだろう。
「日曜劇場」らしいツボを突いた演出
「VIVANT」の原作と演出を担当しているのは、「半沢直樹」や「下町ロケット」など「日曜劇場」で数多くのヒット作を送り出してきた福澤克雄監督だ。本作にも「日曜劇場」のツボを十分に知り尽くした福澤監督の手腕が発揮されている。
第1話は大味なアクションで始まったが、日本に舞台が移った第3話ではサーバールームからデータを回収するミッション、第6話ではホワイトハッカーの太田梨歩(飯沼愛)がテントのサーバー解析を試みるミッションが用意されていた。ミッションをギリギリでクリアする爽快さは「日曜劇場」定番の演出である。
優秀で有能な主人公が敵役を懲らしめるのも「日曜劇場」の醍醐味だ。本作では憂助が山本巧(迫田孝也)を殺したシーンがそれにあたる。ただし、今回は、別班、公安、テントというそれぞれ大義を持つ組織による三つ巴の争いであり、主要登場人物がほぼ全員が優秀で有能なのが特徴だ。なかでも愛嬌のあるエージェント・ドラム(富栄ドラム)は人気を博している。
今の視聴者は、たとえドラマの中であっても、仲間の足を引っ張る無能な人物や利己的で醜悪な人物をとことん嫌うと言われている。そのような人物がほとんど登場せず、優秀で有能な人物たちが死力を尽くしてお互いを出し抜き合う。これも「VIVANT」が人気を集める理由だろう。
今後の予想
第7話のラストでは憂助が別班を裏切るという衝撃の展開があり、第8話では憂助の過去とテロ組織・テントの活動内容が明かされた。最終回に向けて、国家とテロ組織の戦いの話が中心になるのか、憂助とベキの親子の話が中心になるのか、まだ予想がつかない。
「VIVANT」には、赤飯(日本では古くから神に赤米を供えていた)、茶道、神社、日本家屋、日本刀、富士山、桜など、日本を連想させる要素が頻出する。「美しき我が国を穢す者は何人たりとも許さない」という憂助の言葉もインパクトがある。
とはいえ、「美しい日本を守るためにテロ組織を倒す」という単純な物語に収斂するとも思えない。「この物語は乃木憂助が自らの運命に挑む大冒険の物語である」というナレーションからも、幼い頃に両親と家族を亡くし、愛を失ったまま育った憂助という人間そのものがドラマの焦点になると予想される。
父であるベキだけでなく、愛を与えてくれた柚木薫(二階堂)も物語に大きく関わってくるだろう。最後は国家という枠組みを超えた人間同士の愛と争いが描かれるのではないだろうか。最終回まで目が離せない。