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ダイアモンド☆ユカイ『TOKYO POP』が捉えた80年代東京はエネルギーがあった 4K復元版がTIFF上映

『TOKYO POP』より初々しいエネルギーのあふれた二人にも注目
『TOKYO POP』より初々しいエネルギーのあふれた二人にも注目 - (C)KUZUI ENTEPRISES

 今年の第36回東京国際映画祭で上映されることが発表された、フラン・ルーベル・クズイ監督/脚本、ダイアモンド☆ユカイが故キャリー・ハミルトンさんと共演した『TOKYO POP』(1988)。35年ぶりに4Kで復元された今作は先月、ハリウッドのチャイニーズ・シアターでプレミア上映され、クズイ監督と、彼女のパートナーでプロデューサーの葛井克亮(Kaz Kuzui)、ユカイ、キャリーさんの母親で伝説的女優のキャロル・バーネットなど、多くの関係者が集合した。上映後、シアターの舞台と、続いてジャパン・ハウスで開催されたレセプションで、ユカイが劇中歌を演奏して大いに盛り上がった。
 
 主人公は、ニューヨークから東京にやって来たアメリカ人女性ウェンディ(キャリー)。成功を夢みるロックシンガーで、日本語を全く話せない彼女は、宿を探すのも一苦労。心ならずもホステスとして働き始め、ロックグループのリードシンガー、ヒロ(ユカイ)と知り合い恋に落ちる。一緒に歌うことになった2人は、ひょんなことから有名になり……。

(C)KUZUI ENTEPRISES

 映画初主演だったキャリーと、演技経験ゼロだったというユカイ、どちらも魅力的で、2人の相性はピッタリ。彼らが作曲して演奏する音楽や、1980年代後半、バブル時代の活気にあふれる東京の情景も見どころで、映画全体に躍動感があふれている。音楽プロデューサー役の丹波哲郎や、ヒロの祖父役の殿山泰司など、今は亡き名優を見れるのも楽しい。

 ユカイは、本作について「(劇中の)東京はゴチャゴチャしていて、エネルギーがある。これから盛り上がっていくベトナムみたいな空気感が感じられ、けっこう人間臭さがありました。(後に出演した)『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)の東京はすごく綺麗に描かれている。でも、バブルが終わって人間が落ち着いてしまっている」と、時代による東京の違いが面白いと語る。

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 「KAZに背中を押されて今作を初監督することになった」というクズイ監督。キャリーを起用した理由は、子供の頃、ブロードウェイでキャロル・バーネットの舞台を見て、人生でやりたいことが決まるほどの衝撃を受けたことに遡る。キャロルとキャリー母娘について書かれた記事に載っていた写真をずっと持っていたという監督は、配給会社から有名人かその血縁者を主役にすれば映画の製作費を出すと言われた際に、その写真のことを思い出し、キャリーこそ役にぴったりだと考えロスに飛んだ。ちなみに、女優になる前のジュリア・ロバーツを勧められて、「なぜエリック・ロバーツの妹が演技できるなんて思うの? 彼女はウェンディじゃない」と断ったという裏話には笑わされた。

ダイアモンド☆ユカイ、フラン・ルーベル・クズイ監督、葛井克亮プロデューサーもチャイニーズ・シアターの『TOKYO POP』上映に出席

 「キャリーに会って5分後には、彼女は『それで、私はいつ東京に行くの?』と言っていた。私はまだ、この映画に出てほしいとも話していなかったのに。彼女はまさにウェンディだったわ」とフランは運命的な出会いを振り返る。 

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 「この映画はすべてロケで撮影したの。スタッフや私たちが知っている人たち全員が出演しているわ。エキストラを用意したわけじゃなくて、駅で地面に横たわったり、電車に駆け込むのは普通の人たちよ」と言うように、低予算のインディ映画らしい撮影だった。日本語を話せないキャリーとフランが、ランチ時に散歩に出かけ、道に迷ってなかなか撮影現場に戻れなかったという笑い話もある。
 
 初めて演技に挑戦したユカイは、当時24歳。「バンド(RED WARRIORS)の人気が出始めたのと同じ時期にやったから、全てが一気に突き抜けた感じでした。キャリーの影響は大きいですよ。演技とか全く知らなかったから、いろいろ教えてもらった」といい、今作でその後の人生が大きく変わったと言う。

 「キャリーはいつも一人ぼっちだったんです。日本に慣れてないし。唯一、俺が一緒にいたから、その分すごくリレーションシップが近くなった。よく一緒にギター弾いて、ブルースロックを歌ってました。(ロックバンドの)フリーとか、バッド・カンパニーとかが好きなんで。作曲したりしてたんです」と映画の中の2人と重なる部分があったと振り返った。

(C)KUZUI ENTEPRISES

 RED WARRIORSの仲間がロスに住んでいたこともあり、撮影後もよく遊びに行っては、キャリーと会ったりしていたそうだ。「でもその後、あまりアメリカに行かなくなっちゃった。だから、クリスマス前に突然亡くなったと聞いて、すごいショックでとても落ち込みました。どう考えても若すぎる」と38歳にして肺がんで亡くなったキャリーを惜しんだ。

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 配給会社が倒産して、長年、プリント等の素材が失われていた本作。インディー映画の復元を支援する組織 Indie Collect のジェーン・フォンダ・ファンドや映画芸術科学アカデミー、ハリウッド外国人映画記者協会などの支援で、復元される運びとなった。クズイ監督は、復元作業中、20回以上映画を観たが「キャリーのことを思って、毎回泣いた」という。

 インディー映画の配給会社を経営するクズイ監督と葛井は、スパイク・リーやジム・ジャームッシュといったニューヨークの映画監督やアーティストと親交が深かった。今作のオープニングのタイトル・アートは、故キース・ヘリングが、自ら手を挙げて作ってくれたものだという。ある意味で、日本のポップカルチャーを描いた先駆的な作品だったといえる『TOKYO POP』。ノスタルジーを感じる一方で、今でも新鮮に感じるのは、初々しいキャリーとユカイの輝く瞬間を、見事に捉えているからだろう。(取材・文:吉川優子 / Yuko Yoshikawa)

映画『TOKYO POP』4Kデジタルリマスター版は10月30日に東京国際映画祭にてTOHOシネマズシャンテ(17:15~)上映

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